飲食店がすぐに実行できるスマートフォンでの撮影方法 – 応用編
前回の記事では基本編として、飲食店がすぐに実行できるスマートフォンでの撮影方法をお伝えしました。この記事では実践的な撮影テクニックとして、光の使い方、構図の作り方について、より具体的な手法を詳しく解説していきます。
目次
光をコントロールして料理の魅力を最大化する
自然光での時間帯別撮影
料理撮影において自然光の活用は最も重要な要素の一つです。時間帯によって光の質が大きく変わるため、それぞれの特徴を理解し、戦略的に活用することが成功の鍵となります。
朝の時間帯である8時から10時にかけての光は、特に柔らかく暖かみのある色調が特徴的です。この時間帯の光は、パンやコーヒーなどの朝食メニューを撮影する際に最も効果が現れます。窓から30センチから50センチほど離れた位置で撮影することで、自然な明るさと温かみを料理に与えることができます。レース越しの光を活用することで、強い影を避け、柔らかな光を料理に当てることが可能になります。
10時から14時までの時間帯は太陽の位置が高く、安定した光量を提供してくれます。光の色温度も自然で、あらゆる料理ジャンルに対応できる汎用性の高さが魅力です。ただし、直射日光が強すぎる場合もあるため、白いカーテンを使用して光を拡散させることが重要です。複数の窓がある店舗では、明るくかつ安定した光が得られる窓を選択することで、撮影の品質を大幅に向上させることができます。
午後の14時から16時にかけては徐々に温かみを増していきます。この時間帯の光は肉料理やパスタなど、温かい料理の撮影に特に適しています。光量が不足し始める場合は、スマートフォンのISO感度を400から800程度に調整することで、適切な明るさを保つことができます。夕方の光が持つ温かみのある色温度は、お客様に居心地の良さや温もりを感じさせる効果があり、特にディナータイムの集客に効果的です。
人工照明の活用法
自然光だけでは限界がある場合はLED照明を戦略的に活用することで、一日中安定した撮影環境を作ることができます。市販のLED照明を使用したシステム構築は、初期投資3万円から5万円程度で実現可能です。
基本的なLED照明セットアップでは、メインライトを料理の正面45度の位置から照射します。これにより、料理の立体感と質感を効果的に表現することができます。同時にフィルライト(補助照明)を反対側に配置することで、強すぎる影を和らげ、料理全体を均等に照らすことができます。さらに、バックライトを料理の後方に配置することで、料理の輪郭を際立たせ、背景から浮き上がらせる効果を得ることができます。
色温度の設定は、店舗の雰囲気と料理の特性に合わせて選択することが重要です。3200Kの電球色は温かみのある雰囲気を演出し、居酒屋やバーなどの落ち着いた空間に適しています。4000Kの昼白色は最も自然な色味となり、カフェやレストランの標準的な照明として使用されます。5500Kの昼光色はクリアな印象でファーストフードや明るいカフェでの撮影に効果的です。
限られた空間でも効果的な撮影環境を作るために、簡易スタジオの設営が有効です。撮影テーブルを窓の近くに配置し、メインライトを料理の左前45度に設置します。右側には白いレフ板(発泡スチロール板で代用可能)を配置して影を和らげ、背景は料理から1メートルから2メートル離して配置することで、適度なぼかし効果を得ることができます。

シャドウのコントロール
シャドウは料理の立体感を演出する重要な要素であり、適切にコントロールすることで料理の魅力を大幅に向上させることができます。影には大きく分けてソフトシャドウとハードシャドウの2種類があり、それぞれ異なる効果を持っています。
ソフトシャドウは、光源を大きくすることで作り出すことができます。窓の面積を広く使ったり、レースカーテンやトレーシングペーパーなどの拡散材を使用することで柔らかな影を作ることができます。また光源と被写体の距離を近づけることでも、より柔らかな影を得ることができます。このようなソフトシャドウは、料理全体を優しく包み込むような印象を与え、親しみやすさや温かみを演出する効果があります。
一方、ハードシャドウは直射日光や小さな光源を使用することで作り出すことができます。このような影はコントラストを強調し、ドラマチックな効果を生み出します。特に和食や高級料理の撮影において、格調高い雰囲気を演出する際に効果的です。ただし、ハードシャドウは使い方を間違えると料理が暗く見えてしまうため、念入りな調整が必要です。
レフ板を使ったシャドウの調整は最も手軽で効果的な方法の一つです。白いレフ板は影を明るくし、全体的に柔らかい印象を与えます。銀色のレフ板は強い反射光を生み出し、メリハリのある仕上がりを実現します。金色のレフ板は温かみのある光を反射し、パンや肉料理の撮影に特に適しています。
構図の心理学と視覚的インパクト
三分割法の応用テクニック
基本的な三分割法をマスターした後は、より高度な構図テクニックを習得することで、写真の視覚的インパクトを大幅に向上させることができます。
対角線構図は料理皿を画面の対角線上に配置することで、動きと躍動感を演出できます。この構図は特に複数の料理を同時に撮影する際に効果的で、視線を自然に誘導する働きがあります。対角線構図を使用することで静的になりがちな料理写真に動的な要素を加え、より印象的な仕上がりを実現することができます。
放射状構図では料理を中心に置き、付け合わせやカトラリーを放射状に配置します。この構図は視線を料理に集中させる効果があり、コース料理やセットメニューの撮影に最適です。放射状構図を使用することで、料理が持つ中心的な価値を視覚的に強調しお客様の関心を料理に集中させることができます。
知れば写真が上手くなる!基本・応用の構図15選と構図を使いこなすコツ

奥行きと立体感の演出
料理写真において奥行きと立体感を演出することは、二次元の写真に三次元的な魅力を与える重要な技術です。前景、中景、背景の効果的な使い分けにより、写真に深みと豊かさを与えることができます。
前景は調味料やカトラリーをぼかして料理の手前に配置します。これにより視線を自然に料理へと誘導する効果を得ることができます。前景に配置する要素は料理から20センチから30センチ手前に配置することで、適度なぼかし効果を得ることができます。前景は写真に深みを与えると同時に、料理の存在感を高める効果があります。
中景はメイン被写体である料理そのものを配置するエリアです。ここは最もシャープにピントを合わせる最重要エリアであり、構図の中心となる位置に配置します。中景の料理は、前景と背景の要素に囲まれることでより立体的で印象的に見えます。
背景は店舗の雰囲気を伝える要素を配置しながら、適度にぼかして料理を際立たせます。背景は料理から1メートルから2メートル後方に配置することで自然なぼかし効果を得ることができます。背景に配置する要素は店舗のブランディングや季節感を表現する重要な役割を果たします。
食材別・料理別の最適構図
それぞれの料理にはその特徴を最大限に活かす最適な構図があります。料理の種類や特性を理解し、適切な構図を選択することで、料理の魅力を効果的に伝えることができます。
肉料理の撮影では断面を見せる角度での撮影が効果的です。肉汁の滴りや美しい焼き色を強調することで、お客様の食欲を直接的に刺激することができます。サイドアングル(横からの撮影)を基本とし、肉の厚みや質感を強調することが重要です。特に、ステーキやローストビーフなどの高級肉料理では、断面の美しさが購買意欲に直結するためこの撮影角度は非常に重要です。
パスタや麺類の撮影では箸やフォークで麺を持ち上げた瞬間を撮影することで、動きと食欲を同時に演出することができます。45度の角度から撮影することを基本とし、麺の流れやソースの絡み具合を美しく表現します。この撮影方法は、料理の臨場感と美味しさを同時に伝える効果があり、特にSNSでの反応が良い傾向があります。
デザートの撮影では真上からの撮影で美しい装飾を強調したり、断面を見せて層や食感をアピールすることが効果的です。明るく清潔感のある構図を心がけ、デザートが持つ華やかさや特別感を表現します。デザートは視覚的な美しさが特に重要な料理であるため、装飾や色彩のバランスを重視した撮影が求められます。
和食の撮影では、シンメトリー(左右対称)を基本とした構図が効果的です。余白を活かした構図で上品さを演出し、自然な色合いを重視した撮影を行います。和食は「見た目の美しさ」と「季節感」が重要な要素であるため、これらを意識した構図作りが必要です。
時間帯別・シーン別撮影戦略
営業時間中の効率的撮影方法
実際の営業時間中に撮影を行う場合、お客様の邪魔にならず、かつ効率的に高品質な写真を撮影するための戦略が必要です。時間帯ごとの特性を理解し、それに応じた撮影方法を採用することで営業に支障をきたすことなく継続的に撮影を行うことができます。
ランチタイムの11時から14時は自然光が安定している時間帯であり、撮影に最適な条件が整っています。この時間帯ではお客様の邪魔にならない位置での撮影を心がけ、1品あたり2分から3分で完了する効率的な手順を確立することが重要です。ランチタイムは比較的慌ただしい時間帯であるため、事前に撮影の準備を整え、料理が完成した瞬間に素早く撮影できる体制を作ることが重要です。
ディナータイムの18時から21時は、照明が暗くなるため撮影の難易度が上がります。この時間帯ではスマートフォンのISO感度を800から1600程度に調整し、店内の雰囲気を活かした撮影を行います。キャンドル光や間接照明を効果的に活用することで、ディナータイム特有の落ち着いた雰囲気を写真に取り込むことができます。この時間帯の撮影では、明るさよりも雰囲気を重視することで、店舗の特色を効果的に表現することができます。
季節感を活かした撮影技術
季節感を写真に取り入れることで料理の魅力をより豊かに表現し、お客様に季節の移ろいを感じさせることができます。四季それぞれの特徴を理解し、それを写真に反映させることは、店舗のブランディングにも大きく貢献します。
春の撮影では新緑や桜などの季節要素を背景に活用し、明るく軽やかな印象の構図を心がけます。パステルカラーの小物を効果的に使用することで、春らしい柔らかな雰囲気を演出することができます。春は新しい始まりの季節であるため、フレッシュで希望に満ちた印象を料理写真に込めることで、お客様の来店意欲を高めることができます。
夏の撮影では涼しげな印象を演出する青系の色調を重視し、氷や水滴を活用した清涼感の表現を取り入れます。強い日差しを利用したコントラストの強い撮影も効果的で、夏らしい力強さと爽やかさを同時に表現することができます。夏の料理写真は、見るだけで涼しさを感じられるような工夫が重要です。
秋の撮影では暖色系の色合いを活かした温かみのある撮影を心がけ、木の実や紅葉を背景に使用することで季節感を演出します。落ち着いた印象の構図作りにより、秋の深まりとともに増す食欲を刺激することができます。秋は食材が豊富な季節であるため、その豊かさを写真で表現することが重要です。
冬の撮影では温かい料理の湯気を効果的に撮影し、暖色系の照明で温もりを演出します。清潔感のある白を基調とした構図により、冬の清澄な美しさと温かい料理のコントラストを表現することができます。冬の料理写真は、寒さを忘れさせるような温かみと安らぎを表現することが重要です。

撮影効率を上げる実践的なワークフロー
事前準備と効率的な撮影手順
営業時間中の限られた時間で高品質な撮影を行うためには、事前準備と効率的な撮影手順の確立が不可欠です。5分程度の事前準備により、撮影の品質と効率を大幅に向上させることができます。
撮影前の準備では、まずスマートフォンのレンズをクリーナーで拭き、クリアな画質を確保します。撮影場所の照明を確認し、必要に応じて補助照明の準備を行います。背景の整理整頓を行い、不要な要素を取り除くことで、料理に集中できる環境を作ります。撮影に必要な小物(レフ板、三脚など)を準備し、料理の仕上がりを最終確認することで、撮影開始時に慌てることなくスムーズに進行できます。
撮影時の効率的な手順では、まず基本アングルでの撮影を1分程度で行います。その後、構図を変えた撮影を1分、接写での撮影を30秒、確認と追加撮影を30秒の合計3分程度で完了させます。この手順を習慣化することで、営業に支障をきたすことなく、継続的に高品質な写真を撮影することができます。

失敗しやすいポイントと対処法
料理撮影において頻繁に発生する失敗を事前に理解し、適切な対処法を身につけることで、撮影の成功率を大幅に向上させることができます。
手ブレによる失敗
シャッタースピードが遅い場合や手の震えが原因で発生します。この問題を解決するためには、ISO感度を適切に上げることでシャッタースピードを確保したり、三脚を使用して安定した撮影環境を作ります。またタイマー撮影を活用することで、シャッターを押す際の振動を避けることができます。
色味の不自然さ
ホワイトバランスの設定ミスが主な原因です。撮影環境に応じた適切なホワイトバランスの設定を行い、可能であればRAW形式での撮影を行うことで、後から色味の調整を行うことができます。特に異なる色温度の光源が混在する環境では注意深い設定が必要です。
影が強すぎる
光源が小さすぎるか、反射光が不足していることが原因です。拡散材(レースカーテンやトレーシングペーパー)を使用して光を柔らかくし、レフ板を追加して影を和らげることで解決できます。
背景が雑然としている
事前準備不足や構図の意識不足が原因です。撮影前の背景整理を徹底し、浅い被写界深度(ポートレートモード)を活用して背景をぼかすことで料理を際立たせることができます。
高度な撮影テクニック
マクロ撮影の活用
料理の細部を強調するマクロ撮影は、食材の質感や表面の美しさを効果的に表現する高度な技術です。5センチから10センチの接写により、通常の撮影では表現できない料理の魅力を捉えることができます。ただし、手ぶれが発生しやすいため三脚の使用が必須となります。
マクロ撮影で効果的な対象には、肉の焼き色と表面の質感、デザートの装飾や細かいトッピング、調味料の結晶や液体の透明感、パンの表面の焼き色と質感などがあります。これらの要素をマクロ撮影で捉えることで、料理の品質の高さや作り手のこだわりを視覚的に伝えることができます。
動きのある撮影技術
静的な料理写真に動的な要素を加えることで、より印象的で記憶に残る写真を作ることができます。料理を作る過程の撮影、湯気や煙の表現、液体を注ぐ瞬間の撮影などは、料理の臨場感と魅力を効果的に伝える手法です。
バーストモード(連写)を活用することで、1秒間に複数枚の撮影を行い最適なタイミングの1枚を選択することができます。動きの瞬間を確実に捉えるためにはこの機能の活用が不可欠です。特に液体を注ぐ瞬間や湯気が立ち上る瞬間など、一瞬の美しさを捉える際に威力を発揮します。

まとめ:プロレベルの撮影スキルで差別化を図る
料理写真の撮影は単なる記録ではなく、お客様の食欲と来店意欲を喚起する重要なマーケティングツールです。光のコントロール、構図の工夫、効率的な撮影フローを身につけることで、競合他店との差別化を図ることができます。
重要なのは技術的な知識を実践に活かし、継続的に改善を続けることです。毎日の撮影を通じて、お客様の心を動かす一枚を撮影し、店舗の魅力を最大限に伝えていきましょう。
今日から始められる具体的なアクションとして、撮影環境の整備では窓際に専用の撮影スペースを作り、基本機材の準備としてレフ板と三脚を用意し、撮影の習慣化として毎日3枚以上の撮影を継続することから始めることをお勧めします。


名古屋の飲食業界で商品開発や販促に15年携わる。現在はスイーツECを展開しつつ、飲食・EC向けに撮影を通じたビジュアルマーケティングを支援。
食と空間の魅力を引き出すためのブランディングや販促のヒントを発信中。
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