飲食店マーケティングの核心:本能に刺さる戦略とは【パート3】
目次
納得感を生み出す:購買決定の最終関門
System 2の出番:慎重な判断が必要なとき
前回と前々回の記事では、購買決定プロセスの「重要性」と「好意度」の関門について解説しました。今回は最後の関門「納得性」について掘り下げていきます。
お客様が「このお店なら安心して食事ができる」と納得するプロセスは、実はビジネス成功の鍵を握っています。
納得性とは何か
たとえ「重要だ」と認識され、「好きだ」と判断されていたとしても、その判断がとても重要である場合(利害が大きい場合)や、何かが引っかかってスッキリしないとき(疑問が生じた場合)には、脳のより高度な思考である「System 2」が起動します。
この「System 2」は、直感的でとにかく速い「System 1」と違い、じっくり考える脳であり、この機能を使うことは脳全体にとっても負荷が大きいので頻繁には使われず、重要案件にのみ出動してくるラスボス的なものだと理解してください。
実は人間のすべての判断の実に95%が「System 1」のみで行われ、「System 2」は関与していないそうです。残りの5%に関しては「System 2」を突破しないと自分のブランドを選んでもらえません。
「System 2」が抱く3つの典型的な疑問
お客様の「System 2」が活性化するとき、次のような疑問が浮かびます:
- 便益は本当に手に入るのか? 例:「このイタリアンレストランの料理は本当に本格的なのだろうか?」
- 価格は妥当なのか? 例:「このコース料理の値段は、提供される料理の質と量に見合っているのか?」
- 他の選択肢と比べても良い選択なのか? 例:「近くの別のレストランも検討すべきではないか?」
Reason To Believe(RTB)の重要性
これらの疑問に対処するためには、強い「信じる理由」(Reason To Believe)が必要です。例えば:
1. 便益の証明
- シェフのイタリア修行経験を紹介する
- 使用している輸入食材の説明を加える
- 顧客の感想や評価を掲示する(口コミ活用法参照)
2. 価格の妥当性
- カテゴリーの平均価格より25%程度のプレミアム・プライシングに抑える
- 価格の根拠を明確に(特別な食材、調理法など)
- コストパフォーマンスの高さを強調
3. 比較における優位性
- 競合店にない特徴をアピール
- メニューの独自性や特別感を強調
- サービスの質の違いを具体的に示す
プレミアム価格設定の注意点
価格については、消費者が認識する平均価格よりも2割も上回るような価格設定には注意が必要です。カテゴリーによって若干の上下はあるものの、平均価格よりも25%程度のプレミアム・プライシングになると「System 2」に探知されやすくなります。
消費者の脳に判断の根拠となる「ブランド価値」を信じさせることができなければ、プレミアム・プライシングはそもそも成立しません。
カフェのスイーツ選びに見る「System 2」の活動
身近な例として、カフェでスイーツを選ぶときの状況を考えてみましょう。「あー、これ美味しそう、あっちも良いかな……」と、すべてのオプションを必ず見るだけでなく、メニューのページを何度も行ったり来たりすることはありませんか?
これは「System 2」が活発に働いている証拠です。スイーツの選択がその人にとって重要だからこそ、じっくりと検討しているのです。一方、さっと選べる人にとっては、その選択は「System 2」を起こすほど重要ではないということです。
飲食店経営者が今日から実践できること
- メニュー説明に「信じる理由」を加える
- スタッフが商品の背景や特徴を説明できるよう教育する
- 価格設定の根拠を明確にし、顧客に伝える方法を考える
3つの関門すべてを突破するマーケティング戦略を構築することで、お客様の脳に自然と「このお店を選びたい」という気持ちを植え付けることができるでしょう。
次回は「本能を衝く」という戦略について、さらに掘り下げていきます。
3つの関門を統合したマーケティング戦略へ
これまでの記事で「重要性」「好意度」「納得性」という3つの関門について解説してきました。実際のマーケティングでは、これらを統合的に考える必要があります。脳科学で解き明かす飲食店マーケティングの極意では、3つの関門を突破するための実践的なチェックリストと、本能に刺さる具体的な戦略を紹介しています。飲食店マーケティングを成功させるための包括的なガイドとしてご活用ください。

名古屋の飲食業界で商品開発や販促に15年携わる。現在はスイーツECを展開しつつ、飲食・EC向けに撮影を通じたビジュアルマーケティングを支援。
食と空間の魅力を引き出すためのブランディングや販促のヒントを発信中。