飲食店マーケティングの核心:本能に刺さる戦略とは【パート4】

飲食 ブランディング

本能を衝くと脳は抗いがたい:飲食店集客の新戦略

本記事は、USJを復活させた森岡毅氏のマーケティング理論をベースに、飲食店経営者向けに再構成したものです。森岡氏の著書「確率思考の戦略論」の考え方を飲食業界に応用しています。

デジタル時代の消費者心理

これまでの3回の記事では、人間の脳における購買決定プロセスの3つの関門「重要性」「好意度」「納得性」について解説してきました。今回は、その応用編として「本能を衝く」という強力なマーケティング戦略について掘り下げていきます。

現代はスマホの普及により、他の飲食店の情報や口コミを一瞬で調べられる時代になりました。Eコマースの発達も急速に進み、世界中の商品と店舗情報が手のひら一つに集約されています。従来のリアル店舗時代と大きく異なる世界にいることを自覚しなければなりません。

比較検討のコストが劇的に下がった時代

昭和の時代は、他の店での選択肢と価格を調べる消費者側の「労力コスト」が高かったため、一度来店したお客様は比較的簡単に購入に至りました。しかし今や、比較検討もバックオフ(買わない選択)もとても容易になっています。

この状況は「ブランド設計」と「マーケティング・コンセプト」の重要性をますます高めています。どうせ比較される世の中なのだから、いかにブランドをしっかり考えて長期的に強く設計しておくのか、そしてベネフィット・アーティキュレーション(顧客が得られる利益)を中心にマーケティング・コンセプトを消費者の脳にとって魅力的に創り上げるのか。この2点に懸かっているのです。

本能を刺す戦略とは

本能を刺すように飛んでくる価値は、脳にとっては抗いがたく避けられないものです。例えば:

  1. 空腹時に目の前で焼かれる肉の匂い これは「食欲」という本能に刺さっているからこそ、抗うのが難しいのです。店頭での香りの演出方法は非常に効果的なマーケティング手法となります。
  2. 限定メニューやタイムセール 「今逃したら二度と手に入らない」という希少性は、人間の獲得本能を刺激します。
  3. SNSで映える料理やインテリア 他者からの承認・注目を得たいという社会的本能に働きかけます。

飲食店経営者の皆さん、人間の本能に働きかける要素を自分のお店に取り入れることで、顧客の脳の「System 1」に直接訴えかけ、比較検討の心理的ハードルを上げることができるのです。

本能に基づくマーケティングの実践例

1. 視覚に訴える

  • 調理の過程を見せるオープンキッチン
  • 素材の鮮度が伝わる陳列方法
  • 皿から立ち上る湯気や炎の演出

2. 嗅覚に訴える

  • 店頭で香る焼き立てパンやコーヒーの香り
  • 調理中の香りが店内に広がるよう換気を工夫
  • 季節感を演出する香り(例:夏はハーブ、冬はスパイス)

3. 希少性を演出する

  • 「本日限り」「数量限定」のメニュー
  • 旬の食材を使った期間限定メニュー
  • 予約が取りにくい雰囲気の演出

4. 社会的承認欲求を満たす

  • インスタ映えするプレゼンテーション
  • 食べている様子が撮影したくなる仕掛け
  • 有名人や地元の著名人の利用事例の紹介(許可を得た上で)

デジタル時代だからこそ実店舗の強みを活かす

オンラインでは決して得られない五感への訴えかけは、実店舗ならではの強みです。飲食店は特に、この強みを最大限に活かせるビジネスです。

  1. リアルな体験の価値を高める
    • 調理の音や香り、食感など、多感覚的な体験を意識的にデザインする
    • スタッフとの温かい交流や、店内の雰囲気づくりを重視する
  2. デジタルとリアルの融合
    • SNSでの話題作りと実店舗での体験を連携させる
    • 来店前の期待感を高め、来店後の余韻を長引かせる仕掛けを作る

本能に訴えかけるマーケティングは、お客様が「なぜかこの店を選んでしまう」という無意識の選好を生み出します。これは価格競争に陥らない、持続可能なビジネスモデルの基盤となるでしょう。

次回は、このシリーズの総括として、3つの関門をすべて突破するための実践的アプローチについてまとめます。お楽しみに!

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