驚異的な成長を遂げるyutoriの「今」を読む:『yutoriに学ぶEC戦略』part1
ファッション・コスメ分野を中心に、若者世代から絶大な支持を集めるD2C企業、株式会社yutori。東証グロース市場に上場し、その急成長ぶりが注目されています。
EC業界は常に変化しており、成功のためにはその波をどう乗りこなすかが重要です。本シリーズでは、yutoriが発表した2025年3月期の通期決算資料を深掘りし、彼らがどのようにしてこの競争の激しい市場で頭角を現し、持続的な成長を実現しているのかを読み解いていきます。
パート1である今回は、まず発表されたばかりの決算のハイライトに焦点を当て、yutoriが現在どのような状況にあるのか、「数字」から彼らの「今」を紐解いていきましょう。→株式会社yutori
目次
過去最高を更新し続ける驚異的な成長
2025年3月期、株式会社yutoriは目覚ましい業績を達成しました。売上高、売上総利益、調整後EBITDA、営業利益といった主要な利益項目全てにおいて、過去最高を更新。まさに「絶好調」と言える数字が並びます。
具体的な数字を見てみましょう。
- 売上高: 8,306百万円(前期比 +92.3%)
- 売上総利益: 5,112百万円(前期比 +97.5%)
- 営業利益: 671百万円(前期比 +75.0%)
- 当期純利益 (親会社株主に帰属): 314百万円(前期比 +40.0%)
特筆すべきは売上高が前期から92.3%増と倍増に近い成長を遂げている点です。さらに創業以来7期連続での増収を記録しており、一過性ではない、持続的な成長軌道に乗っていることが分かります。利益面でも売上総利益率が61.5%と高く、粗利率を維持しながら規模を拡大していることがうかがえます。
この急成長の背景にはM&Aによる子会社の連結化が大きく影響しています。特に「Her lip to」を運営するheart relation社が第3四半期から、アパレルブランド「over print」のえをかく社が第4四半期から連結対象となったことが、売上・利益を大きく押し上げる要因となりました。
成長を支える足元の財務状況
連結決算へ移行したことで、貸借対照表にも変化が見られます。2025年3月期末時点の財務状況の概要は以下の通りです。
- 総資産: 6,565百万円
- 純資産: 2,095百万円
- 自己資本比率: 14.7%
M&Aに伴い子会社の資産や負債が連結されたことで総資産が大きく増加しています。自己資本比率は前期末(34.3%)と比較すると低下していますが、これは事業拡大のための投資や借入増加などが影響しており、成長ステージにある企業としては必ずしもネガティブな側面だけではありません。資料ではM&Aによって発生した「のれん」や「無形資産」が計上されていること、そしてそれらを含めても健全性を維持していることが強調されています。積極的な投資と財務規律のバランスを取りながら、事業拡大を進めている様子がうかがえます。

多角化する事業とチャネル戦略の現状
yutoriは、複数のブランドを「ヤングカルチャー」「Her lip to」「ニュアンス」といった事業部に再編成し、それぞれの強みを活かした運営を行っています。2025年3月期の通期売上高の約4割を「ヤングカルチャー」が占め、「Her lip to」が約3割を占めるなど、特定のブランドに依存しすぎないポートフォリオが構築されつつあります。
- 自社EC: 32.2%
- プラットフォーム (PF): 22.2%
- オフライン: 39.0%
- 卸: 4.7%
EC発のブランドでありながら、オフラインチャネルが売上全体の約4割を占めている点は注目に値します。利益率が高いとされる自社ECとオフラインチャネルの合計で7割以上を占めており、収益性の高い販売構造を築いていることが分かります。プラットフォームECで顧客接点を広げつつ、自社ECやオフラインで顧客との関係性を深め、収益性を高める戦略が見て取れます。
成長の軌跡を示す主要指標
事業規模の拡大は店舗数やブランド数といった主要な指標にも表れています。
- 店舗数: グループ合計46店舗(2025年3月期末時点)
- ブランド数: 合計38ブランド(2025年3月期末時点)
- Instagramフォロワー数: グループ全体で277万人を突破
店舗数は継続的に増加しておりオフラインでの存在感を強めています。ブランド数の増加はM&Aや新規立ち上げが着実に進んでいることを示しており、今後も「日本一のブランド数として70以上を目指す」としています。そしてSNSフォロワー数の増加は、彼らのブランドが多くの人々から支持され、高いエンゲージメントを獲得していることの証と言えるでしょう。

次なる成長への布石:組織再編と今後の展望
yutoriはさらなる成長と変化への迅速な対応を目指し、2025年8月1日付けで一部事業の会社分割を予定しています。「ヤングカルチャー事業」と「コスメ事業」をそれぞれ子会社として分社化することで、各事業の独立性を高め、より機動的な意思決定や収益管理を強化する狙いです。将来的に親会社を持株会社化することも視野に入れており、グループ経営体制の進化を目指しています。
そして来る2026年3月期についても、引き続き力強い成長を見込んでいます。
- 売上高予想: 11,000百万円(前期比 +32.4%)
- 営業利益予想: 880百万円(前期比 +31.1%)
前期の急成長からさらに+30%以上の増収増益を目指すという強気の予想は、彼らの事業に対する自信の表れと言えるでしょう。
パート1まとめ:数字が語るyutoriの「勢い」

パート1ではyutoriの最新決算数字を中心に、彼らが現在どのような状況にあるのかを概観しました。過去最高を更新し続ける売上・利益、多角化する事業とチャネル、そして積極的な投資と組織再編の動き。これらの数字からは、yutoriがEC業界において、まさに破竹の勢いで成長を遂げている企業であることが明確に見て取れます。
では、彼らはなぜこれほどの成長を実現できたのでしょうか?その裏には、どのような戦略や哲学があるのでしょうか?
次回のパートでは、yutoriの決算資料から読み取れる具体的な「成長戦略」に焦点を当て、彼らが実践している多様なチャネル戦略、ブランド育成、海外展開といった取り組みについて、さらに詳しく掘り下げて考察していきます。お楽しみに。

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名古屋の飲食業界で商品開発や販促に15年携わる。現在はスイーツECを展開しつつ、飲食・EC向けに撮影を通じたビジュアルマーケティングを支援。
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