TikTok Shop日本上陸、EC業界はどう変わる?
目次
はじめに:ついに始まる「ショート動画でモノが売れる時代」
動画を見ながら気になった商品をワンタップで購入する。そんな体験がいよいよ日本でも現実のものとなります。2025年6月に日本において、中国発のSNS型EコマースのTikTok Shopがサービスを開始する見通しと、日本貿易振興機構(ジェトロ)から発表されました。TikTok Shop、6月に日本でサービス開始の見通し
これまで日本のEC市場は「検索して比較して購入する」という能動的な消費行動が主流でした。しかし、TikTok Shopの登場により「偶然出会って衝動的に購入する」という受動的な消費体験が本格的に始まります。この変化は単なる新しいECプラットフォームの追加にとどまらず、消費者の購買行動そのものを根本から変える可能性を秘めています。
特に注目すべきは、日本の1日平均利用時間は80分超と、主要SNSの約3倍というTikTokの圧倒的なエンゲージメントの高さです。TikTok Shop日本上陸はいつ?
この「見る時間の長さ」が「商品との接触時間」に変わることで、従来のECとは全く異なる購買体験が生まれるでしょう。
そもそもTikTok Shopとは?「エンタメコマース」の正体
発見型・衝動買いを促す新しいECの形
TikTok Shopは、ショート動画・ライブ配信・ショップタブを通じて「発見から購入までがアプリ内で完結するECプラットフォーム」です。従来のECモールが「欲しいものを探しに行く場所」だとすれば、TikTok Shopは「偶然欲しいものに出会う場所」として機能します。
この違いは消費行動に大きな変化をもたらします。従来のEC体験では、消費者は明確な購買意図を持ってサイトを訪問し、検索・比較・検討のプロセスを経て購入に至ります。一方TikTok Shopでは、エンターテインメントを求めて動画を視聴している最中に、予期せず魅力的な商品と出会い、その場の感情に動かされて購入します。
約75%のユーザーが視聴後に商品を検索、36%が購買経験ありというマクロミルの調査データが示すように、TikTokコンテンツは既に強い購買意欲を喚起しています。このエンゲージメントにショッピング機能が直結することで「認知から購買まで」の距離が劇的に短縮されます。
ショート動画とライブコマースが販売の主軸
TikTok Shopの核となるのは、2つの販売チャネルです。
まず「Shoppable Video」機能では、動画内に表示される商品タグから、視聴者がそのまま商品ページへアクセスできます。15秒から3分程度のショート動画の中で商品の魅力を伝え、興味を持った視聴者が即座に購入できる仕組みです。
次に「LIVE Shopping」機能では、ライブ配信中に商品を紹介し、その場で購入へと誘導できます。リアルタイムでの商品説明やQ&A、限定セールなどにより、リアルタイムの特別なやりとりが購買意欲を刺激し、売上向上につながるとされています。
関連記事:ライブコマース完全攻略!TikTok Shopで売上を最大化するテクニック

なぜ今、日本に?海外での成功とローンチの背景
東南アジアや米国で証明された驚異的な成長率
TikTok Shopの日本進出は、決して実験的な試みではありません。24年世界GMV6兆円突破という実績が示すように、既に世界各地で確実な成功を収めています。TikTok Shop、米国逆風も勢い衰えず。
特に東南アジア市場での成長は目覚ましく、ショートビデオとアプリ内ショッピングの組み合わせを楽しむモバイルに精通した若者たちに助けられて急速に拡大しています。
米国市場でも着実な成果を上げています。11月にタルトはTikTokで12時間のライブストリームを開催、2万5千人以上の視聴者を集めました。その期間中のTikTok Shopの売上の70%は、同プラットフォームでタルトをフォローしていない新規の顧客によるものだったという実績は、TikTok Shopが持つ新規顧客獲得力の高さを物語っています。TikTok Shop 勝負の年。課題は顧客体験とバイラルへの対応
日本のZ世代・ミレニアル世代の消費動向との合致
日本市場への参入タイミングは消費者動向の変化と密接に関連しています。特にZ世代・ミレニアル世代を中心とした若年層では、商品情報の収集や購買判断において、SNSの影響力が急速に高まっています。
150か国以上/75言語対応(2024年時点、Appダウロード世界1位)という圧倒的なリーチ力を持つTikTokが、日本でも若年層を中心に高いエンゲージメントを獲得している現状を踏まえると、「エンターテインメント性の高いコンテンツを通じた商品発見」という体験は、日本の消費者にも十分受け入れられると考えられます。

日本のEC市場はどう変わる?
【比較】楽天・Amazon vs TikTok Shop:集客と販売モデルの違い
既存のECモールとTikTok Shopの最大の違いは、集客アプローチにあります。楽天やAmazonは「検索エンジン最適化」や「広告出稿」によって顧客を自社プラットフォームに誘導し、そこで商品検索・比較・購入というプロセスを完結させます。
一方、TikTok Shopは「エンターテインメントコンテンツへの自然な関心」を入口として、視聴体験の中で商品との出会いを創出します。これは単純な「購買支援ツール」を超えて、「購買動機の創出」から担う包括的なプラットフォームと言えます。
価格競争についても大きな違いがあります。従来のECモールでは商品の横比較が容易なため、価格競争が激化しやすくなります。しかし、TikTok Shopでは「コンテンツの魅力」や「ストーリー性」が購買の主要因となるため、価格以外の付加価値で差別化を図りやすい環境が生まれます。
既存モールの「検索型消費」を脅かす可能性
TikTok Shopの台頭は、消費者の情報収集行動そのものを変える可能性があります。これまで「欲しいものがあるからECサイトで探す」という能動的行動が主流でしたが、「何気なく見ていた動画で偶然良い商品に出会う」という受動的体験が増えることで、既存ECモールへの流入が減少する可能性があります。
特に衝動買いが多い商品カテゴリー(ファッション、美容、グルメ、雑貨など)では、「検索する前にTikTokで発見・購入」というパターンが一般化する可能性が高くなります。これは既存ECモールにとって、単純な競合プラットフォームの増加を超えた構造的脅威となります。
中小企業やD2Cブランドにとっての好機
一方でTikTok Shopは中小企業やD2Cブランドにとって大きなチャンスでもあります。知名度がない新興ブランドでも、TikTok上でユーザー発信の共感を呼べば爆発的なヒットに繋がることを海外事例が示すように、大手企業と同じスタートラインで勝負できる環境が生まれます。
従来のECモールでは、既に確立されたブランドや豊富な広告予算を持つ企業が有利でした。しかし、TikTok Shopでは「コンテンツの創造性」や「ストーリーの魅力」が最重要要素となるため、資本力よりもアイデア力で勝負できます。
海外の事例を見ると、TikTok Shopは市場参入初期に販売者の参入を促進するため、期間限定で低い手数料率を設定する傾向があります。そのため、日本でもサービス開始当初は2%前後の優遇料率が適用される可能性があり、初期参入企業にとって有利な条件が整うと予想されます。

事業者が注目すべき3つのポイント
1. 新規顧客、特に若年層へのリーチ力
TikTok Shopの最大の価値はこれまでリーチできなかった層への接触機会の創出にあります。TikTok Shopの売上の70%は、同プラットフォームでタルトをフォローしていない新規の顧客によるものという米国での事例は、既存顧客ベース以外への強力な拡張効果を示しています。
特に日本市場では、若年層のTikTok利用率の高さを考慮すると、Z世代・ミレニアル世代へのリーチ拡大において絶大な効果が期待できます。従来のマーケティング手法では接触困難だった層に対して、エンターテインメント性の高いコンテンツを通じて自然な形で商品を訴求できます。
2. コンテンツ制作力がそのまま販売力になる
TikTok Shopでは、商品自体の品質や価格競争力に加えて、「それをどう伝えるか」というコンテンツ力が直接的に売上を左右します。15秒の動画で商品の魅力を最大限に伝える技術、視聴者の感情に訴えかけるストーリーテリング、ライブ配信での魅力的な商品紹介など、これまでマーケティング部門の担当だった領域が、販売活動の中核に位置づけられます。
これは事業者にとって新たなスキル習得の必要性を意味する一方で、コンテンツ制作に長けた企業にとっては大きな競争優位となります。動画制作、ライブ配信、インフルエンサーとのコラボレーションなど、新しい販売手法への対応力が業績を大きく左右することになります。参考記事:「いいね」で終わらせないSNS投稿とブランド運用
3. インフルエンサーとの連携(アフィリエイト)の重要性
TikTok Shopでは、インフルエンサーやコンテンツクリエイターとの連携が売上拡大の鍵となります。影響力のあるクリエイターが商品を紹介することで、その商品に対する信頼性や魅力が格段に向上し、フォロワーの購買行動を強く促進します。
従来のアフィリエイトマーケティングとは異なり、TikTok Shop内でのインフルエンサー連携は、より自然で親しみやすい形で商品紹介が行われます。商品の使用シーンや個人的な感想、実際の使い勝手などを含めたリアルなレビューが、視聴者の購買意欲を効果的に刺激します。
事業者としては、自社商品の特性に合ったインフルエンサーの選定、魅力的なコラボレーション企画の立案、効果測定システムの構築など、包括的なインフルエンサーマーケティング戦略の策定が急務となります。

まとめ:変化を恐れず、新たな潮流を掴む準備を
TikTok Shopの日本上陸は、単なる新しいECプラットフォームの登場にとどまりません。それは「エンターテインメントと商取引の融合」という新しい消費体験の始まりであり、事業者にとって大きなビジネスチャンスの到来を意味します。
成功の鍵は従来のEC運営とは異なるアプローチへの対応力にあります。商品力だけでなくコンテンツ力、価格競争力だけでなくストーリー力、広告運用力だけでなくインフルエンサー連携力など、多面的な能力の向上が求められます。
これらの挑戦を乗り越えた事業者には、これまでにない規模での事業拡大の機会が待っています。特に中小企業やスタートアップにとっては、大手企業と対等に勝負できる数少ない舞台となる可能性が高くなります。変化を恐れず、新たな潮流を積極的に掴む姿勢こそが、次世代のEC市場で成功を収める条件となるはずです。

関連記事:【2025年最新版】TikTok Shop完全攻略ガイド

名古屋の飲食業界で商品開発や販促に15年携わる。現在はスイーツECを展開しつつ、飲食・EC向けに撮影を通じたビジュアルマーケティングを支援。
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