EC・飲食店のための写真撮影講座:絞り(F値)を制する
目次
こんなお悩みありませんか?
- 商品や料理の写真を撮っても、なんだか素人っぽい…
- 写真が暗くて、美味しそうに見えない、魅力的に見えない
- 背景をぼかしたプロのような写真を撮りたいけど、やり方が分からない
- 商品の細部までくっきり見せたいのに、なぜかボケてしまう
この記事を読むと得られること
- 写真の明るさとボケ感を自分でコントロールできるようになる
- 料理のシズル感や商品の魅力を最大限に引き出す写真が撮れる
- ECサイトやメニュー、SNSで顧客の目を引く、訴求力の高い写真が撮れる
はじめに:なぜ「絞り」が重要?写真の印象を自在に操る魔法の数値
SNSで見かける「美味しそう!」「素敵!」と思わず反応してしまう写真と、自分で撮った商品写真を比べて、「なぜこんなに違うのだろう」と感じたことはありませんか?その違いを生み出している要因の一つが「絞り(F値)」という設定です。
絞りは写真の明るさとボケ感を同時にコントロールできる、まさに「魔法の数値」です。この一つの設定を理解するだけで、あなたの商品写真は劇的に変化します。
EC・飲食事業者が絞りを学ぶべき3つの理由:
- 理由1:売上に直結する視覚的インパクトを創出できる 商品写真の品質は購買決定に直接影響します。適切な絞り設定により、商品の魅力を最大限に引き出し、顧客の購買意欲を刺激する写真を撮影できます。
- 理由2:撮影コストを大幅に削減できる プロカメラマンに依頼する前に、まず自社で高品質な写真撮影にチャレンジできます。絞りの基本を押さえることで、外注費用を抑えながら訴求力の高い写真を量産できるようになります。
- 理由3:ブランドイメージの一貫性を保てる 自社で撮影することで、ブランドのトーンや世界観を一貫して表現できます。絞りの効果を理解すれば、商品カテゴリーに応じて適切な表現スタイルを使い分けることも可能です。
絞り(F値)の基本:カメラの「瞳」で明るさをコントロールしよう
絞り(F値)とは、カメラのレンズを通ってセンサーに到達する光の量を調整する仕組みです。人間の瞳が明るさに応じて大きくなったり小さくなったりするのと同じように、カメラも絞りを調整して光の量をコントロールしています。
F値が小さい(例:F1.8)の場合
- 絞りが大きく開く → 光がたくさん入る → 写真が明るくなる
- レンズの開口部が大きいため、より多くの光を取り込めます
- 室内や曇りの日など、光が少ない環境でも明るい写真を撮影可能
F値が大きい(例:F11)の場合
- 絞りが小さくなる → 光が少なくなる → 写真が暗くなる
- レンズの開口部が小さいため、取り込める光の量が制限されます
- 明るい屋外など、十分な光がある環境での撮影に適しています

【実践】「暗くて美味しそうに見えない…」をF値で解決するテクニック
多くのEC事業者や飲食店が直面する「写真が暗い」問題は、F値の調整で簡単に解決できます。
室内での商品撮影や料理撮影では自然光が不足しがちです。このような環境ではF値を小さく設定することで、より多くの光を取り込み、明るく魅力的な写真を撮影できます。
具体的にはF2.8以下(F1.8、F2.0、F2.8)に設定してみてください。ただし、F値を小さくすると後述する「ボケ」も大きくなるため、ピント合わせには注意が必要です。
撮影時のポイントとして、カメラの「A(Av)モード(絞り優先モード)」を使用することをおすすめします。このモードでは、F値を手動で設定すると、カメラが自動的に適切なシャッター速度を選択してくれるため、初心者でも失敗の少ない撮影が可能です。

主役が際立つ「ボケ」の作り方:絞りで生み出すプロ級の立体感
プロが撮影した写真を見ると、主役となる商品や料理が浮き上がるように美しく表現されています。この効果の秘密が「背景ボケ」です。
なぜ背景をぼかすと魅力的に見えるのでしょうか?理由は以下の通りです:
- 視線誘導効果:ピントの合った部分に自然と目が向かい、商品に注目が集まります。
- 立体感の演出:前景・中景・背景の区別が明確になり、写真に奥行きが生まれます。
- 雑音の除去:背景の不要な要素がぼけることで、商品の魅力が際立ちます。
- 高級感の演出:プロっぽい仕上がりになり、商品の価値が高く感じられます。
「ボケ感」もF値で決まります:
F値が小さい(例:F1.8)の場合
- ピントの合う範囲(被写界深度)が狭い → 背景が大きくボケる
- 主役を際立たせる効果が高く、印象的な写真に仕上がります
- 単焦点レンズを使用すると、より美しいボケを作ることができます
F値が大きい(例:F11)の場合
- ピントの合う範囲(被写界深度)が広い → 背景までくっきり写る
- 商品の詳細情報や周辺環境も含めて表現したい場合に適しています
- ECサイトの商品説明写真などに効果的です

【比較写真で一目瞭然】F値を変えると写真はこう変わる
実際の撮影では、同じ被写体でもF値を変えるだけで全く異なる印象の写真になります。
F1.8で撮影した場合:背景が美しくボケて、料理が浮き上がるような立体感が生まれます。レストランのメニュー写真やSNS投稿に最適です。
F8で撮影した場合:料理から背景まで全体的にシャープに写り、テーブルセッティングや空間の雰囲気も含めて表現できます。店舗紹介や雰囲気を伝えたい場合に効果的です。
このように、撮影目的に応じてF値を使い分けることで、一つの商品や料理から多様な表現の写真を作り出すことができます。
【実践編】もう迷わない!シーン別・絞り(F値)設定ガイド
《ボケを最大限に生かす場合》シズル感と特別感を演出する
こんな時におすすめ
- 料理のアップ(パスタ、ラーメン、ステーキなど)
- ケーキやドリンクの「寄り」の写真
- 特定の商品を目立たせたい時
- SNS投稿で「いいね!」を獲得したい時
- 高級感や特別感を演出したい商品
目的: とろけるようなボケで主役に視線を集め、みずみずしさや高級感を伝える
料理撮影において、湯気や照りなどの「シズル感」を最大限に表現するには、背景ボケの活用が不可欠です。F値を小さく設定することで、料理の質感や色彩が際立ち、食欲をそそる写真に仕上がります。
設定の目安: F1.8〜F4(単焦点レンズがおすすめ)
単焦点レンズ(50mm F1.8、85mm F1.4など)を使用すると、ズームレンズでは表現できない美しいボケを作ることができます。予算に応じて、コストパフォーマンスの高い50mm F1.8レンズから始めることをおすすめします。
撮影のコツ: 主役の一番見せたい部分にピントを合わせる
料理撮影では最も美味しそうに見える部分、例えばステーキの焼き目、パスタのソースが絡んだ部分、ケーキのフルーツ部分などにピントを合わせます。ピント位置が少しずれるだけで写真の印象が大きく変わるため、撮影後は必ず画像を拡大してピントを確認してください。
また被写体との距離も重要です。近づきすぎるとピント合わせが困難になり、遠すぎるとボケ効果が弱くなります。レンズによって最短撮影距離は異なりますが、目安として被写体から30〜50cm程度の距離を基準に調整を行ってください。

《全体をシャープに写す場合》商品の情報と世界観を正確に伝える
こんな時におすすめ
- ECサイト用の商品写真(アパレル、雑貨、ギフトセットなど)
- 複数の料理を並べたテーブル全体の写真
- お店のこだわりが詰まった内装写真
- 商品の詳細や機能を説明する写真
- カタログやパンフレット用の写真
目的: 商品のディテールや素材感、空間の広がりや奥行きを余すことなく見せる
ECサイトにおいて顧客は実際に商品を手に取ることができないため、写真から得られる情報が購買決定の重要な要因となります。商品の素材感、縫製の丁寧さ、色味の正確性などを伝えるには、細部までシャープに写った写真が必要です。
設定の目安: F8〜F13
F8は多くのレンズで最もシャープに写る「スイートスポット」とされており、商品撮影の基準となる設定です。より広い範囲にピントを合わせたい場合はF11やF13を使用しますが、F16以上にすると光の回折現象により画質が低下する可能性があるため注意が必要です。
撮影のコツ: 三脚を使って手ブレを防ぎ、シャープに仕上げる
F値を大きくすると光の量が少なくなるため、シャッター速度が遅くなりがちです。手ブレを防ぐために三脚の使用を推奨します。また、セルフタイマーやリモートシャッターを使用することで、シャッターを押す際の振動も防げます。
照明についても注意が必要です。自然光が不足する場合はLED照明などの人工光源を追加してください。ただし、色温度の異なる光源を混在させると色味が不自然になるため、統一した光源を使用することが重要です。
商品を複数配置する場合は、全ての商品に均等にピントが合うよう、カメラと商品の距離を調整してください。また、商品の配置も重要で、前後の距離差が大きすぎると、F値を大きくしても全てにピントを合わせることが困難になります。

まとめ:「絞り」をマスターして、お客様の心を掴む一枚を
今回学んだ絞り(F値)の基本をおさらいしましょう:
明るく、背景をぼかしたい場合 → F値を小さくする(F1.8〜F4)
- 料理のシズル感を表現したい時
- 商品に高級感を演出したい時
- SNSで注目を集めたい時
- 暗い環境での撮影時
全体をくっきり見せたい場合 → F値を大きくする(F8〜F13)
- ECサイトの商品詳細を伝えたい時
- 複数の商品を同時に紹介したい時
- 店舗の雰囲気を表現したい時
- カタログ用の正確な情報を提供したい時
実践のファーストステップとして、まずはカメラの「A(Av)モード(絞り優先モード)」でF値を変えて撮影してみてください。同じ被写体を異なるF値で撮影し、その違いを実際に確認することで、理論だけでなく感覚的にも絞りの効果を理解できるようになります。
撮影技術の向上には継続的な練習が不可欠ですが、絞りの基本を理解することで商品写真は確実にレベルアップします。たった一つの設定を変えるだけで、顧客の心を掴む魅力的な写真を撮影できるようになります。
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名古屋の飲食業界で商品開発や販促に15年携わる。現在はスイーツECを展開しつつ、飲食・EC向けに撮影を通じたビジュアルマーケティングを支援。
食と空間の魅力を引き出すためのブランディングや販促のヒントを発信中。
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