なぜ顧客に響かないのか?顧客を「主人公」にするストーリー戦略
目次
はじめに
こだわりの商品を揃えたECサイト。味にも内装にも自信のあるレストラン。多くの時間と情熱、そして資金を投じてビジネスを立ち上げました。ウェブサイトのデザインもプロに頼み、見た目も悪くない。それなのに、なぜか売上が思うように伸びない。アクセスはあるのに購入に繋がらない。一度は来てくれても、リピーターになってくれない。もしあなたがそんな悩みを抱えているなら、その原因は商品やサービスの質、あるいはウェブサイトのデザインが悪いからではないかもしれません。問題はお客様に「情報が正しく伝わっていない」ことにあるかもしれません。
この記事では、ドナルド・ミラー著 ストーリーブランド戦略―あなたは商品を売っている理由を発信しているか?を参考に、多くの企業が時間と費用を浪費してしまうマーケティングの根本的な課題を解き明かし、顧客の心を掴んで離さない「ストーリー戦略」の基本思想について、特にEC事業者、飲食店事業者の皆様に向けて解説します。https://amzn.to/45kV7Kg
多くのマーケティングが失敗する、たった一つのシンプルな理由
結論から言うと、ほとんどのマーケティングが失敗するのは「複雑すぎる」からです。
人間の脳は基本的に省エネになるように設計されています。脳が一日に処理できる情報量には限りがあり、情報を処理するたびにカロリーを消費します。そして脳の最も重要な機能は、私たちが生き延びて成長し続けられるようにすること。つまり生存に関わらない「不要な情報」の処理で貴重なカロリーを無駄遣いしたくないのです。
現代は情報過多の時代です。消費者は一日に相当な数の広告メッセージに晒されていると言われます。そんな中でぱっと見て意味がわからない、理解するのに頭を使わなければならない情報は、脳によって瞬時に「不要な情報」として分類され無視されてしまいます。
私たちは単に良い商品を市場に出す競争をしているのではありません。「自社の商品がお客様にとって必要である理由を、いかに分かりやすく伝えるか」という、伝わり方の競争をしているのです。

企業が犯しがちな2つの間違い
この脳の「省エネ」「生存」という基本原則を理解しないままマーケティングを行うと、企業は致命的な2つの間違いを犯しがちです。
間違い①:顧客の「生存」にどう役立つかを語れていない
一つ目は自社の商品やサービスが顧客の「生存」にどう有利に働くかを語れていないことです。
「生存」と聞くと大げさに聞こえるかもしれません。しかしここで言う生存とは、物理的な生き死にだけでなく、より良く生きたいという人間の根源的な欲求全般を指します。
現代における「生存」に関わる欲求とは?
あなたのお客様は、以下のような欲求を満たすために情報を探しています。
- お金や時間を節約したい: 資源を確保し、他の活動に充てたい。(例:タイムセール、時短レシピ)
- 社会的なつながりを築きたい: コミュニティに属し、良い人間関係を育みたい。(例:ギフト商品、記念日ディナー)
- 社会的ステータスを得たい: 他者から認められ、尊敬されたい。(例:限定品、高級食材を使ったコース)
- 健康になりたい、安全でいたい: 身体的・精神的な幸福を維持したい。(例:オーガニック商品、無添加食品)
- 自己実現したい: 理想の自分に近づき、人生を豊かにしたい。(例:プロ仕様の調理器具、料理教室)
あなたのビジネスは、こうした顧客の根源的な欲求のどれに応えていますか?「うちの会社は創業〇年で…」「私たちのこだわりは…」といった企業側の話は、残念ながら顧客の生存欲求には響きません。
間違い②:理解してもらうために、顧客の頭を使わせすぎている
二つ目はメッセージが複雑で、顧客にたくさんのカロリー(思考力)を消費させてしまっていることです。
あなたのウェブサイトを初めて訪れた顧客が、5秒以内に「何が売られていて、それを買うと自分の生活がどう良くなるのか」を直感的に理解できなければ、彼らはすぐに離脱してしまうでしょう。それはあなたのサイトが魅力的でないからではなく、脳が「面倒だ」と判断したからです。
人々が買うのは必ずしも最高の商品ではありません。人々が買うのは、最も理解しやすい商品なのです。

「雑音」こそがビジネス最大の敵である
ではどうすれば脳に優しく分かりやすいメッセージを伝えられるのでしょうか。その答えは、ストーリーの力を借りて「雑音(ノイズ)」を徹底的に取り除くことです。
ストーリー戦略における「雑音」とは、顧客の関心を引かず、物語の筋に関係のない、あらゆる余計な情報を指します。企業の自己満足な裏話、多すぎる選択肢、専門的すぎる言葉遣い――これら全てが顧客の脳を疲れさせ、購買意欲を削ぐ雑音となります。
言葉も写真も、余計な情報は「雑音」になる
この「雑音を取り除く」という考え方は、マーケティングの文章やキャッチコピーだけに限りません。ウェブサイトやメニューで使う「写真」においても全く同じことが言えます。
例えば以下のような経験はないでしょうか。
- ECサイトの商品写真で、背景に生活感のある小物が映り込んでいる。
- 飲食店の料理写真で、メインの皿の奥に、食べ終わった別の食器や雑然としたテーブルの端が見えている。
これらは全て、顧客の集中力を削ぐ「視覚的な雑音」です。脳は無意識に「この商品(料理)はどんなものだろう?」という情報と同時に、「背景に映っているアレは何だろう?」という不要な情報まで処理しようとしてカロリーを消費してしまいます。その結果、本当に伝えるべき商品の魅力が半減してしまうのです。
高品質な撮影、プロの仕事とは、単に機材が良く明るく撮れるということではありません。顧客が受け取るべきメッセージ(この商品は素晴らしい、この料理は美味しそう)以外の視覚情報を極限まで削ぎ落とし、ストーリーのヒーロー(商品や料理)を際立たせる技術まで含めてフォトグラファーの仕事です。

まとめ:「何を書かないか」「何を見せないか」で決まる
今回の内容をまとめましょう。
- 顧客の脳は「複雑さ」を嫌い、シンプルで分かりやすい情報を求める。
- マーケティングでは自社の商品が顧客の「生存(より良く生きたいという欲求)」にどう貢献するかを語る必要がある。
- 言葉や写真に含まれる余計な情報(雑音)は、顧客の理解を妨げ、ビジネスの成長を阻害する最大の敵である。
あなたのビジネスを成長させる第一歩は、新しい何かを「足す」ことではありません。顧客の物語に関係のない「雑音」を、言葉からも写真からも徹底的に「引く」ことから始まります。
これからは「何を書かないか」「何を見せないか」が、あなたのマーケティングの成否を分ける重要な鍵となるでしょう。

【次回予告】
では具体的にどのようにして「雑音」を取り除き、顧客の心を動かす物語を構築すればよいのでしょうか。
次回はAppleやスター・ウォーズなど、世界的なブランドや作品も活用する強力な「物語の7つ道具(SB7フレームワーク)」について、その全体像を分かりやすく解説します。
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名古屋の飲食業界で商品開発や販促に15年携わる。現在はスイーツECを展開しつつ、飲食・EC向けに撮影を通じたビジュアルマーケティングを支援。
食と空間の魅力を引き出すためのブランディングや販促のヒントを発信中。
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