国境を越えるブランド戦略、写真が拓く海外市場:『yutoriに学ぶEC戦略』part6
パート5ではyutoriがSNSをブランド成長のエンジンとして活用し、顧客との強固なエンゲージメントを築いている様子を見てきました。SNSは現代のEC事業者にとって不可欠なブランディング・コミュニケーションツールであることを学びました。
シリーズ最終回となるパート6ではyutoriのもう一つの大きな挑戦である「海外展開」に焦点を当てます。国内市場での成功を足がかりに、彼らはどのようにして国境を越え、新たな市場を開拓しようとしているのでしょうか。そしてその中で「写真」が果たす極めて重要な役割について探ります。
なぜEC事業者は「海外」を目指すべきか?
国内市場が成熟し競争が激化する中で、海外市場はEC事業者にとって新たな成長機会の宝庫となり得ます。特に経済成長が著しいアジア市場は大きな可能性を秘めています。yutoriもこの波に乗り、成長戦略の一つとして海外展開を積極的に推進しています。
具体的な対象地域として挙げられているのは、台湾、中国、そして韓国です。これらの国々は、ファッションやコスメへの関心が高く、ECやSNSの利用も活発なため、yutoriが培ってきたノウハウやブランド力が活かせる市場と言えるでしょう。

海外展開における「ビジュアル」の壁とチャンス
しかし、海外展開は容易ではありません。文化や言語の壁、消費者の嗜好の違いなど、乗り越えるべきハードルが多く存在します。特にアパレルやコスメといった視覚情報が重要な商材を扱うEC事業者にとって、この課題は顕著になります。
国内市場で成功したビジュアルコンテンツ(特に写真)が、そのまま海外市場で通用するとは限りません。むしろ、現地の消費者に響かない、あるいは誤解を招く可能性すらあります。ここに、海外展開における「ビジュアルの壁」が存在します。
一方で写真を含むビジュアルコンテンツは、言語の壁を越えて直感的に情報を伝えることができる強力なツールでもあります。この「ビジュアルの力」を最大限に活用することができれば、海外市場でのブランド認知獲得や顧客獲得において大きなアドバンテージとなります。ここに「ビジュアルのチャンス」があるのです。

各市場に響く写真のローカライズ戦略
海外市場でビジュアルのチャンスを掴むためには、単に国内の写真を使い回すのではなく、ターゲットとする市場に合わせて写真を「ローカライズ」、つまり現地仕様に最適化する必要があります。yutoriの事例や海外展開の成功事例から、以下の点が重要であると考えられます。
- モデル選定:共感を生む多様性: ターゲットとする国や地域の消費者が「自分と同じだ」「こうなりたい」と共感しやすいモデルを起用することがとても重要です。肌の色、髪型、体型など、現地の多様性を反映したモデルや、その国で人気のインフルエンサーやKOLを起用することで親近感や信頼感を生み出すことができます。
- ロケーション選定:現地に馴染む背景: 写真の背景となるロケーションも現地の文化やトレンド、消費者のライフスタイルに合った場所を選びます。現地の象徴的なスポットや、ターゲット層が日常的に訪れるようなおしゃれなカフェ、街並みなどでの撮影は、ブランドをよりリアルで魅力的に見せます。
- スタイリング:トレンドと文化の融合: 同じ商品でも国によって好まれる着こなしやコーディネートは異なります。現地のファッション誌やSNSで人気のスタイリングを研究し、現地のトレンドや文化を取り入れたコーディネートで商品を提示することが重要です。yutoriが韓国での現地連携を視野に入れていることからも、ローカルな知見を取り入れることの重要性がうかがえます。
- トーン&雰囲気:市場に合わせた審美性: 写真全体の明るさ、色合い、雰囲気といった審美性も、ターゲット市場で好まれるスタイルに合わせます。例えば日本では柔らかく自然なトーンが好まれる傾向がありますが、他のアジア圏ではより鮮やかなトーンが好まれることもあります。現地の人気ブランドやメディアのビジュアルを参考に調整が必要です。
- 文化への配慮:避けたいタブー: 特定のポーズやジェスチャー、色、シンボルなどが、その国の文化においてネガティブな意味を持つ場合があります。文化的なタブーや誤解を招く可能性のある表現は避けるよう細心の注意を払う必要があります。
- 言語を超えたコミュニケーション: 写真は文字が読めなくても情報を伝える力があります。商品の素材感、シルエット、着用時のイメージ、ディテールなどを、写真だけで明確かつ魅力的に伝えられるように、クオリティの高い写真を準備することが、特に言語の壁がある海外ECにおいては非常に重要になります。

yutoriは台湾での店舗展開で「初日から行列が絶えないなど、非常に好調な滑り出し」を見せています。これは商品の魅力に加え、現地の消費者に受け入れられるようなビジュアルコミュニケーションを含めた、様々なローカライズ戦略が奏功している可能性を示唆しています。
写真最適化が海外成功の鍵を握る
結論として、EC事業者が海外展開を成功させるためには、市場調査やローカライズされたウェブサイト、物流体制の構築などに加え、現地の消費者に響くビジュアルコンテンツ、特に写真のローカライズに戦略的に取り組むことが不可欠です。
現地の消費者が「自分のためのブランドだ」と感じ、共感できるようなビジュアルを提供することで、ブランド認知度を高め、信頼を構築し、最終的に購買に繋げることができます。国境を越えてブランドの世界観を伝え、顧客の心を掴む上で、写真はその最も強力な武器となるのです。

『株式会社yutoriに学ぶEC業界の戦い方』シリーズは今回で最終回となります。パート1からパート6を通して、yutoriの決算資料を基に、彼らがなぜこれほどまでに成長しているのか、その多角的な戦略(業績、財務、チャネル、ブランド/M&A、オフライン、SNS、海外展開)の一端を読み解いてきました。
EC業界は今後も変化し続けますが、yutoriの事例から得られる学びはこれからEC事業を成長させていきたい、あるいは既存の事業をさらに発展させたいと考える多くの事業者にとって、きっと重要な示唆を与えてくれるはずです。
本シリーズが皆様の今後のEC戦略を考える上での一助となれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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名古屋の飲食業界で商品開発や販促に15年携わる。現在はスイーツECを展開しつつ、飲食・EC向けに撮影を通じたビジュアルマーケティングを支援。
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