ストーリー戦略の実践:信頼される「導き手」になる方法
前回の記事では顧客の心を動かす設計図「フレームワーク」の全体像を解説しました。7つの要素を理解することでメッセージの羅針盤は手に入りました。しかし羅針盤が指すべき方角が定まっていなければ船は進めません。
今回は実践編です。フレームワークの各要素をあなたのビジネスにどう落とし込むかを具体的に解説していきます。今回はその心臓部である前半の3要素「①主人公」「②課題」「③導き手」に焦点を当てます。この3つを強固にすることで、顧客との間に決して揺るがない信頼の絆を築くことができます。
参考:ドナルド・ミラー著 ストーリーブランド戦略―あなたは商品を売っている理由を発信しているか?
目次
【主人公】あなたの顧客が本当に「欲しい」ものは何か?
ストーリーの第一歩は主人公、つまり「お客様」を定義することです。そして最も重要なのは、その主人公が何を望んでいるのかを明確にすることです。
なぜなら主人公の「現状」と「望み」の間にはギャップがあり、この「ストーリー・ギャップ」こそが顧客の興味を引きつけ、あなたの提供する商品やサービスを求める強い動機となるからです。
顧客の欲求を「生存」に関わるレベルで定義する
顧客の望みを定義する際、表面的な欲求で終わらせないことが重要です。前々回で触れた「生存に関わる欲求」のレベルまで掘り下げてみましょう。
【EC事業者向け】
お客様は「オーガニック野菜」が欲しいのではありません。その先にある「家族に安全なものを食べさせたい(関係構築・安全)」や「健康的な体を手に入れて、毎日をいきいきと過ごしたい(健康)」という成功体験が本当に欲しいものです。
【飲食店向け】
お客様は「個室のあるレストラン」を探しているのではありません。その先にある「大切な記念日を誰にも邪魔されず成功させ、パートナーを喜ばせたい(関係構築・ステータス)」という結末を求めているのです。

【写真のヒント】顧客が「こうなりたい」と憧れる主人公の姿を写す
あなたのウェブサイトに掲載する写真は単に商品写真だけでなく、その商品を手に入れた結果、理想の自分(ヒーロー)になった顧客の姿も写し出しましょう。オーガニック野菜を囲む家族の笑顔、レストランで幸せそうに乾杯するカップルの姿。高品質な写真は顧客が目指すべきゴールを見せてくれます。
【課題】顧客が戦っている「悪役」を特定する
平和なだけのストーリーに人々の心は動きません。主人公の前に立ちはだかる「課題」や「悪役」がいて初めてストーリーは面白くなります。あなたのビジネスは顧客が直面している課題を解決するために存在します。
重要なのは顧客が抱える問題を3つのレベルで捉え、特に「内的問題」に焦点を当てることです。
問題の3つのレベル:外的・内的・哲学的問題
- 外的問題:顧客が物理的に直面している、目に見える問題。(例:夕食を作る時間がない)
- 内的問題:その外的問題によって引き起こされる、心の中のフラストレーション。(例:時間がないせいで、家族に手料理を食べさせてあげられないという罪悪感や焦り)
- 哲学的問題:「そもそもこうあるべきではないか?」というより大きな善悪の問題。(例:忙しいからといって、家族との大切な食事がおろそかにされるべきではない)
多くの企業は外的問題の解決策(便利なミールキット)をアピールしがちですが、顧客が本当に解決したいと願っているのは、その根源にある罪悪感や焦りといった内的問題なのです。

【EC・飲食店向け演習】あなたの顧客の「内的問題」は何ですか?
あなたの商品やサービスがなかったら、お客様はどんなことでイライラし、不安になり、がっかりするでしょうか?その「負の感情」こそ、あなたのビジネスが打ち倒すべき真の「悪役」です。
【導き手】あなたはヒーローではなく、賢者「ヨーダ」であれ
顧客(主人公)がいて解決すべき課題が見えました。ここで多くの企業が犯す最大の過ちが、自らを「ヒーロー」として語り始めてしまうことです。「我々の技術は最高です!」「我々の歴史はこんなにすごい!」と。しかしヒーローの座はすでにお客様のものであり、もう一人ヒーローは必要ありません。
あなたの役割は、主人公を助け、導く「導き手(ガイド)」です。映画『スター・ウォーズ』のルーク・スカイウォーカー(主人公)に対する、ヨーダのような存在です。

信頼を勝ち取る2つの要素:「共感」と「権威」
顧客に「この人こそ、自分を助けてくれる導き手だ」と信頼してもらうには、2つの要素を伝える必要があります。
共感:顧客の痛みを理解し、寄り添う
まずは「あなたのその気持ち、よく分かります」という姿勢を示すことです。顧客が抱える内的問題に寄り添い、「夕食の準備、大変ですよね」「記念日のお店選び、失敗したくないですよね」と共感の言葉を投げかけることで、顧客は「この会社は自分のことを理解してくれている」と感じ、心を開きます。
権威:あなたが問題を解決できることを証明する
共感だけではただの「いい人」で終わってしまいます。次にあなたがその問題を解決する能力があること、つまり「権威」を示さなくてはなりません。ただし自慢話にならないように客観的な事実をシンプルに提示しましょう。
- お客様の声:満足したお客様からの短い推薦文を3件ほど掲載する。
- 数字:「累計販売数〇〇万個突破」「顧客満足度95%」といった具体的な実績を示す。
- 受賞歴・メディア掲載歴:小さなロゴや画像をウェブサイトのフッターなどにさりげなく配置する。
- (BtoBの場合)取引先ロゴ:取引のある有名企業のロゴを掲載する。
【写真のヒント】プロフェッショナルな撮影で「導き手」としての信頼を勝ち取る
「権威性」は写真でも語れます。飲食店の清潔で機能的な厨房、シェフの真剣な眼差し、ECサイト運営者の整然としたオフィスや商品管理体制。こうしたプロフェッショナルな現場を高品質な写真で見せることで、顧客は言葉以上にあなたのビジネスや商品の信頼性と実力を感じ取ることができます。

まとめ:主人公を深く理解し、導き手として名乗りを上げよう
今回はストーリー戦略の土台となる3つの要素について解説しました。
- 顧客を「主人公」とし、彼らが本当に望む未来を定義する。
- 主人公が抱える内面的な「課題」に深く共感する。
- 共感と権威を示し、信頼できる「導き手」として名乗りを上げる。
この3つの要素を固めることで、あなたのビジネスは単なる売り手から、顧客の人生を成功に導くためのかけがえのないパートナーへと変わります。

【次回予告】
さて、信頼関係を築いた導き手は、次に何をするべきでしょうか?
次回はいよいよ顧客を行動へと導き、購入のハードルを越えさせ、最高の結末を迎えてもらうためのストーリー後半部分「④計画」「⑤行動喚起」「⑥失敗」「⑦成功」について徹底的に解説していきます。
関連記事:ECブランディングで差をつける|売れるビジュアル戦略と設計思考のすべて

名古屋の飲食業界で商品開発や販促に15年携わる。現在はスイーツECを展開しつつ、飲食・EC向けに撮影を通じたビジュアルマーケティングを支援。
食と空間の魅力を引き出すためのブランディングや販促のヒントを発信中。
撮影プラン詳細はこちら
撮影のご相談はこちら