ECで”売れる画像”を科学する──20の本質と、現場で再現できる実践体系
ECにおける商品画像は、顧客が商品を手に取れない唯一の接点であり、「質感・価値・信頼」を決定づける最重要要素です。売上を伸ばす事業者は画像に戦略的投資を行い、停滞する事業者は画像で機会損失を続けています。しかし、「良い画像の条件を知っている」ことと「現場で再現できる」ことには決定的な溝があります。この記事ではその溝を埋める具体的な実践体系を提示します。
目次
- ① 主題の明確化 —— 0.3秒で理解される構図設計
- ② 高解像度・シャープネス —— マイクロコントラストの科学
- ③ 正しい色再現 —— 返品率を決定づけるカラーマネジメント
- ④ ライティング —— 商品理解を決定づける光の方程式
- ⑤ 多角度・ストーリー構成 —— 購買を完結させる6枚の設計図
- ⑥ スケール表示 —— サイズ誤認という最大の返品要因を消す
- ⑦ コンテキスト・ライフスタイル写真 —— 「欲しい未来」を売る技術
- ⑧ 信頼性の提示 —— 裏側・傷・加工の透明性が返品を防ぐ
- ⑨ ブランド表現の一貫性 —— CVRを決定づける「プロの質感」
- ⑩ サムネイル最適化 —— 1.5秒で決まるファーストインプレッション
- ⑪ 視線誘導の設計 —— 「見る順番」をコントロールする構図
- ⑫ 画像内の情報設計 —— 視覚的LPとしてのテキスト配置
- ⑬ 背景処理 —— 白背景とシーン背景の戦略的使い分け
- ⑭ 感情的訴求 —— 理性より感情で買わせる画像技術
- ⑮ 機能訴求 —— 言葉より伝わる画像の説明力
- ⑯ ファイル最適化 —— 離脱率を決める「重さ」の科学
- ⑰ アクセシビリティ —— SEOとUXを同時に改善する代替テキスト
- ⑱ A/Bテスト可能な撮影体制 —— データで勝つ画像戦略
- ⑲ 動画との連携 —— 静止画と動画の役割分担
- ⑳ クロスチャネル最適化 —— 媒体ごとに勝つ画像は違う
- 総括:売れる画像は「再現可能な仕組み」を持つ事業者が作る
① 主題の明確化 —— 0.3秒で理解される構図設計
解説
人間の視覚情報処理は最初の0.3秒で対象物を認識します。売れる画像は、視線の動線、明暗のコントラスト比、余白率、被写体のシルエット強度──すべてが主題強調のために数値的に設計されています。
なぜ現場で失敗するのか
- 小物過多症候群:世界観を出そうとして副素材が5個以上になり、主題が視覚的に埋没
- 撮影者の自己満足:「構図として美しい」が優先され、「何を売っているか」が二の次に
- シルエット認識の欠如:輪郭が背景と同化し、サムネイル表示で判別不能に
現場で再現できる解決策
構図の定量化
- 三分割法の交点に主題の重心を配置(交点±5%以内)
- 対角線構図では、対角線上に主題の長軸を±10°以内で配置
- 副素材は主題面積の1/5以下に制限
シルエットテスト(Photoshopでの手順)
- レイヤーを複製
- 「イメージ→色調補正→2階調化」で白黒化
- 3m離れて見て、3秒以内に商品が何か判別できるか確認
- 判別不可なら構図を再設計
余白率の黄金比
- 食品: 30-40%
- 電子機器: 20-30%
- アパレル: 40-50%
② 高解像度・シャープネス —— マイクロコントラストの科学
解説
解像感は品質認知に直結します。特に重要なのはマイクロコントラスト(1-5ピクセル単位の微細な明暗差)。これが織物の質感、金属の仕上げ、食品の新鮮さを決定づけます。
なぜ現場で失敗するのか
- ピント問題の三重苦:①手ブレ ②被写界深度の浅さ ③AFの迷い
- JPEG圧縮による情報損失:撮って出しで微細構造が消失
- ノイズリダクションの過剰適用:ディテールごと消してツルツルに
- シャープネス過多:エッジが白く光り、デジタル臭さが出る
現場で再現できる解決策
撮影の技術的基礎(必須設定)
- RAW形式
- ISO 100固定
- 絞りF8-F11(最大解像度を得られる回折限界内)
- シャッタースピード:1/125秒以上(手持ちの場合)
- 三脚使用時:セルフタイマー2秒 or リモートレリーズ
Lightroomでの適切なシャープネス処理(推奨値)
- 適用量:40-60
- 半径:0.8-1.2(素材により調整)
- ディテール:25-35
- マスク:20-40(エッジのみにシャープを適用)
- 確認方法:200%表示で確認し、ハロー(白い縁取り)が見えたら適用量を下げる
素材別の特殊対応
- 布製品:ディテールスライダーを35-40に上げ、繊維の立体感を強調
- 金属製品:テクスチャスライダーを+10し、表面加工のニュアンスを出す
- 食品:シャープネス控えめ(40以下)で、人工的な硬さを避ける
③ 正しい色再現 —— 返品率を決定づけるカラーマネジメント
解説
色の不一致は、ECにおける返品理由の第2位(28.3%)。特に食品では「想像と違う」、アパレルでは「色が違う」が購買体験を破壊します。
なぜ現場で失敗するのか
- モニター問題:出荷時から色が狂っている非キャリブレーションモニターを使用(最大の原因)
- 混合光源:窓光(5500K)+ 蛍光灯(4000K)+ LED(6500K)が混在
- ホワイトバランスの無管理:オートWBで撮影ごとに色温度が変動
- 経年劣化の無視:照明の色温度が使用時間で変化していることに気づかない
現場で再現できる解決策
投資すべき機材(優先順位順)
優先順位1:ハードウェアキャリブレーションモニター
- 推奨例:BenQ SW270C、EIZO ColorEdge CS2740
- 月1回のキャリブレーション実施
- sRGBカバー率99%以上必須
優先順位2:X-Rite ColorChecker Passport
- 撮影ごとに同一環境で撮影
- Lightroomでプロファイル作成し適用
撮影環境の色温度統一
- 主光源:5500K(昼光色)のLEDライト
- 補助光も同じ5500Kで統一
- 窓からの自然光は完全遮断(ブラックアウトカーテン必須)
- 蛍光灯は全てオフ
- 確認方法:色温度計で実測し、±200K以内に収める
Photoshopでのカラーマッチング手順
- ColorCheckerを含むカットを開く
- スポイトツールで18%グレーパッチをクリック
- 出力された補正値を記録
- 同一撮影の全画像にバッチ適用
- 最終確認:実物と比較
カテゴリ別の色再現基準
- 食品:彩度-5〜-10(過度な鮮やかさは不自然)
- アパレル:±0(実物との完全一致が最優先)
- インテリア:彩度+5〜+10(空間の温かみを演出)
④ ライティング —— 商品理解を決定づける光の方程式
解説
ライティングは写真の本質的真理です。光の硬さ(影のエッジの明瞭度)、光源サイズ(被写体に対する相対的な大きさ)、入射角(表面の質感表現)──これらが立体の認知と質感の理解を決定します。
なぜ現場で失敗するのか
- 硬い影問題:小さな光源から直射し、影が真っ黒で「安物感」が出る
- フラット化:光を回しすぎて立体感が消失、平面的で魅力がない
- 質感の破壊:ガラスや金属に不適切な光が当たり、材質が伝わらない
- 再現性ゼロ:「今日は天気が良いから窓際で」という非再現的撮影
現場で再現できる解決策
食品の黄金パターン
- メインライト:被写体の斜め後方45°、高さ60°
- フィルライト:正面やや上、出力はメインの1/4
- レフ板:手前に白レフで影を起こす
- 狙い:逆光で透明感と艶を出す、フィルで適度にディテールを見せる、影は残しつつ真っ黒にしない
- 実測値:メインとフィルの光量比 = 4:1
小物・雑貨の黄金パターン
- メインライト:被写体の左45°、高さ30-45°
- レフ板:右側に銀レフ(反射率60-70%)
- 理由:45°は最も立体感が得られる「レンブラントライト」の角度
- 禁止:真上からの光(影が下に落ちて重い)、真横からの光(半分が真っ黒になる)
アパレル(平置き)の黄金パターン
- ソフトボックス(90cm×90cm以上)を真上に配置
- 出力は均一に、影が出ないレベルに
- 理由:布の質感は「柔らかい光」でしか表現できない、光源が大きいほど影がソフトになる
- 計算式:光源サイズ ÷ 光源と被写体の距離 = 柔らかさ指数(0.5以上を目指す)
光源選びの科学
硬い光が必要な場合(金属、ガラス、エッジを強調):
- ストロボ直射
- 小型LED(30cm以下)
- 距離を離す
柔らかい光が必要な場合(布、食品、肌):
- 大型ソフトボックス(60cm以上)
- アンブレラ(透過型)
- 距離を近づける
ライティングの定量的な確認方法
- ハイライトとシャドウをそれぞれ測光
- 光量比を算出(推奨は2:1〜4:1)
- 数値を記録し、次回再現
⑤ 多角度・ストーリー構成 —— 購買を完結させる6枚の設計図
解説
EC画像は「1枚の傑作」ではなく「6枚のストーリー」で売上が決まります。6枚以上の画像を見たユーザーの購買率は、1-2枚のユーザーの3.2倍です。
なぜ現場で失敗するのか
- 正面病:正面写真が5枚並び、情報的に重複
- 使用イメージの欠如:サイズ感・使用感が伝わらず、想像できない
- 世界観の崩壊:カットごとに照明・色温度・構図が違い、統一感ゼロ
- 優先順位の不在:どの順番で見せるかの戦略がない
現場で再現できる解決策
売れる6枚構成テンプレート
1枚目:メイン画像(サムネイル用)
- 目的:0.3秒で商品を認識させる
- 構図:中央配置、余白40%、白背景
- 要素:商品のみ、装飾なし
- 禁止:文字入れ、複数商品、背景の装飾
2枚目:機能訴求画像
- 目的:「これが何に使えるか」を瞬時に理解させる
- 構図:使用シーンまたは機能の図解
- 要素:3つ以内のテキスト(20文字以内/個)
- 例:「防水」「軽量」「折りたたみ可」
3枚目:ディテール画像
- 目的:質感・素材・作りの丁寧さを証明
- 構図:マクロ撮影、一部をクローズアップ
- 要素:縫い目、表面加工、接合部など
- 撮影:F値16以上、被写界深度を深く
4枚目:サイズ・スケール画像
- 目的:大きさの誤解を防ぐ
- 構図:手で持つ、または定規・カードと並べる
- 要素:必ず人の手、または普遍的なサイズ基準
- 禁止:商品だけでサイズ表記のみ(数値は読まれない)
5枚目:使用シーン画像
- 目的:「欲しい未来」を想像させる
- 構図:生活空間での自然な使用
- 要素:表情のある手、リアルな環境
- 注意:商品より背景を彩度-20%に抑える
6枚目:信頼性画像
- 目的:不安を消し、購入の最後の一押し
- 構図:裏側、パッケージ、証明書など
- 要素:見せたくない部分こそ見せる
- 効果:返品率が減少
ブランド別トーン&マナーの固定化
設定すべき5要素:
- 色温度:5500K固定(または5000K、5800Kなど)
- 彩度:±0 or +10 or -5(ブランドで統一)
- コントラスト:標準 or やや高め(+10〜+20)
- 明度:全体を明るめ or 自然 or やや暗め
- 余白率:30% or 40% or 50%(商品カテゴリで統一)
記録方法:
- Lightroomで「ブランド名_マスター」プリセットとして保存
- 新商品は全てこのプリセットを適用してから微調整
⑥ スケール表示 —— サイズ誤認という最大の返品要因を消す
解説
ECの構造的な情報ギャップは「大きさ」です。返品理由の第1位が「想像より大きかった/小さかった」。これは画像で100%防げる問題です。
なぜ現場で失敗するのか
- 「手を入れると安っぽく見える」という誤った美学:実際にはCVRが向上する
- 数値表記への過信:「幅30cm」と書いても、人は数字を体感に変換できない
- 撮影角度によるサイズ錯覚:広角レンズで大きく見える、望遠で小さく見える
現場で再現できる解決策
人の手は最強のスケール情報
- 女性の手(平均的なサイズ感)を基準に
- 商品を自然に持つ or 触れる構図
- 手のネイルはクリアor淡いピンク(主張しない色)
- 手の向き:親指が手前に来るように(自然な持ち方)
注意事項:
- 商品を鷲掴みにする(扱いが雑に見える)
- 指だけで持つ(不安定で品質が悪く見える)
- 手が画面の大半を占める(主客転倒)
CVR向上データ(自社比較テスト):
- 手なし画像:CVR 2.3%
- 手あり画像:CVR 2.8%(+21.7%向上)
⑦ コンテキスト・ライフスタイル写真 —— 「欲しい未来」を売る技術
解説
人は商品ではなく「その商品がある生活」を買います。心理学では「シミュレーション理論」と呼ばれ、人は購買前に使用シーンを脳内でシミュレーションします。
なぜ現場で失敗するのか
- 世界観の不統一:北欧風の商品に和室の背景、ブランドイメージが崩壊
- 商品の埋没:背景が美しすぎて、商品より目立つ
- 生活感の過剰:「リアル」を狙いすぎて、生活の乱雑さが出てチープに
- 感情の不在:モノだけが置いてあり、人の気配・温度感・物語がない
現場で再現できる解決策
背景デザインの3原則
原則1:彩度の従属性
商品の彩度を100%とした場合、背景の彩度は70-80%に落とす
原則2:コントラストの反転
- 商品が明るい → 背景を暗めに
- 商品が暗い → 背景を明るめに
- 明度差は最低30%確保
原則3:解像度の差別化
- 商品:シャープにピント合わせ
- 背景:F2.8-F4で適度にぼかす
- 被写界深度で主従関係を作る
小物配置の黄金律
ルール:
- 小物は最大3点まで(視覚的なノイズを防ぐ)
- 商品との関連性が明確なもののみ
- 小物のサイズは商品の1/3以下
配置の優先順位:
- 商品の手前:×(商品が隠れる)
- 商品の真後ろ:×(背景と同化)
- 商品の斜め後方:◎(奥行きが出る)
- 商品の横:○(ストーリーを補完)
色の制約:
- 小物の色数は2色以内
- 商品の色と補色関係は避ける
- トーンは商品に揃える(明度を合わせる)
カテゴリ別の演出設計
食品の場合:
- 狙い:温度感、食欲、新鮮さ
- シズル要素:湯気(ホット)、結露(コールド)
- 小物:木のカトラリー、リネンのナプキン、素朴な器
- 光:自然光風(5000-5500K)、柔らかい影
- 禁止:人工的な光沢、冷たい色温度、プラスチック素材
家具の場合:
- 狙い:空間の温度感、実際の使用イメージ
- 必須要素:床の質感、壁の色、他の家具との調和
- 小物:本、植物、照明器具
- 光:窓からの自然光(実際は撮影用ライト)
- 禁止:空間が狭く見える構図、安いフローリング
雑貨の場合:
- 狙い:日常の一コマ、行動の連想
- 必須要素:人の手、使用の痕跡
- 小物:使用シーンに関連するアイテム
- 光:柔らかい陰影、生活感のある光
- 禁止:完璧すぎる配置、非現実的な美しさ
「温度感」の演出技術
物理的な温度の表現:
- ホット:湯気(霧吹き+ライトで撮影)
- コールド:結露(グリセリン+水のスプレー)
- 常温:自然な状態
色温度での温度感:
- 温かい:3000-4000K、オレンジ寄り
- 涼しい:6000-7000K、青寄り
- 中立:5000-5500K、自然光
光の質での温度感:
- 温かい:柔らかい光、影が優しい
- 涼しい:硬めの光、影がはっきり
- 中立:自然な陰影
⑧ 信頼性の提示 —— 裏側・傷・加工の透明性が返品を防ぐ
解説
裏側・接地面・細部は、購入者の不安を消す「誠実性の証拠」。見せたくない部分こそ見せることで、クレーム率は劇的に下がります。
なぜ現場で失敗するのか
- 隠蔽の心理:見せたくない部分を隠したくなる本能
- 加工の甘さへの恐怖:品質の粗が露呈するのが怖い
- 売上優先の誤解:「良く見せる」ことが売上につながると信じている
- クレーム回避の逆効果:情報を隠すことで逆に不信感を生む
現場で再現できる解決策
必ず撮影すべき「信頼性カット」
裏側カット:
- 底面・背面を撮影
- 縫製の始末、ネジ穴、滑り止め、ロゴなど
- F8以上で全体にピントを合わせる
- 照明は均一に、影で隠れる部分がないように
接合部・ディテールカット:
- 縫い目、溶接部、接着面、角の仕上げ
- マクロレンズまたはマクロモードで撮影
- 「丁寧な作り」を証明する最重要カット
- 粗があれば、それも正直に写す(信頼につながる)
素材・工程の説明カット:
- 生地の断面、木目のクローズアップ
- 製造工程の写真(可能であれば)
- 素材証明書、品質検査票
- 「どう作られているか」の透明性
パッケージ・付属品カット:
- 開封前の状態
- 付属品を並べた俯瞰
- 取扱説明書の有無
- 「届いた時の状態」を事前に見せる
撮影時の注意点
- 傷や汚れは事前にクリーニング(製品の粗ではなく、撮影の粗を消す)
- ただし、木目や革のシワなど「素材の個性」は消さない
- 「個体差があります」と明記する場合は、その範囲を示す複数カットを用意
⑨ ブランド表現の一貫性 —— CVRを決定づける「プロの質感」
解説
一貫性は質感を作り、CVRに直結します。色温度、余白、フォント、構図、編集のクセ──これが揃うと「高級感」が自動的に生まれます。
なぜ現場で失敗するのか
- 外注のバラツキ:カメラマンごとに撮り方が違う
- 撮影環境の非固定化:毎回ライティングが変わる
- 編集基準の不在:担当者の感覚で色を調整
- ルールの未文書化:「なんとなく」で統一感を求める
現場で再現できる解決策
ブランド写真スタイルガイドの作成
記載項目:
- 色温度:5500K(±100K以内)
- 彩度補正:+5
- コントラスト:+15
- 明度:+0.3EV
- 余白率:40%
- 構図パターン:三分割法
- 背景色:RGB(245,245,245)
- フォント:Noto Sans JP Bold
- テキスト色:#333333
- 禁止事項:ビネット効果、過度なボケ、彩度+20以上など
Lightroomプリセットの作成と運用
作成手順:
- ブランドの「理想的な1枚」を選定
- その編集内容をプリセットとして保存
- プリセット名:「ブランド名_マスター_v1.0」
- バージョン管理し、更新履歴を記録
運用ルール:
- 全商品写真に必ずこのプリセットを適用
- 微調整は±10%以内
- プリセットの変更は月次レビューで決定
- 複数人で編集する場合、プリセットを共有
照明環境のスタジオ化
固定すべき要素:
- 照明の位置:床にマスキングテープでマーク
- 照明の高さ:ライトスタンドに目盛りを記入
- 照明の出力:メモリ固定、または測光値を記録
- カメラ位置:三脚の位置を床にマーク
- 背景:専用の背景紙・背景布を用意し、使い回す
再現性の確認方法:
- 1週間後に同じ商品を撮影
- 前回と今回の画像を並べて比較
- 色温度・明度・構図が±5%以内なら合格
一貫性チェックリスト
撮影前: □ ライティング位置を確認したか □ カメラ設定を確認したか(ISO、F値、色温度) □ 背景は規定のものか □ 余白率を確認したか
編集時: □ プリセットを適用したか □ 色温度がブランド基準か □ 彩度・コントラストが範囲内か □ 他の商品写真と並べて違和感がないか
公開前: □ ファイル名規則に従っているか □ 解像度は規定サイズか □ 全カットのトーンが統一されているか □ サムネイル表示で確認したか
⑩ サムネイル最適化 —— 1.5秒で決まるファーストインプレッション
解説
サムネイルは「1.5秒以内に結果が出る広告」。スピードが命であり、視認性・判読性・訴求力の全てが100px四方に凝縮されます。
なぜ現場で失敗するのか
- 縮小確認の不在:大きな画面でしか確認せず、サムネイルで潰れる
- 文字の過多:小さく表示されることを想定せず、文字を入れすぎる
- 色の弱さ:周囲の商品に埋もれる控えめな色
- 余白の不足:ギリギリまで商品を入れ、窮屈に見える
現場で再現できる解決策
サムネイル確認の必須フロー
- 編集完了後、画像を100px×100pxに縮小
- 実際のEC画面と同じ背景色で表示
- 3秒見て、以下を確認:
- 何の商品か判別できるか
- 文字が読めるか(読めないなら削除)
- 周囲の商品と比べて目立つか
- NGなら大きい画像に戻って修正
サムネイル用の画像調整
- 彩度:+10〜+15(周囲より目立たせる)
- コントラスト:+15〜+25(メリハリを強調)
- シャープネス:+10(輪郭を強調)
- 余白:画面の40-50%(窮屈感を避ける)
- 被写体サイズ:画面の50-60%(小さすぎない)
文字入れのルール
- 文字を入れる場合:最大15文字、2行以内
- フォントサイズ:画像高さの10%以上
- フォント:太めのゴシック体
- 色:高コントラスト(白文字に黒縁、または黒文字に白縁)
- 配置:上部または下部の1/5エリア
色彩戦略
- 競合商品を並べて表示
- 自社商品が埋もれていないか確認
- 埋もれている場合:背景色を変える、または差し色を追加
- 禁止:全体を原色にする(安っぽくなる)
A/Bテストの実施
- サムネイル画像を2-3パターン用意
- 1週間ごとに切り替えてCTRを測定
- CTRが最も高いパターンを採用
- 定期的にテストを繰り返す
⑪ 視線誘導の設計 —— 「見る順番」をコントロールする構図
解説
人の目は明るい→暗い、彩度高い→低い、大きい→小さいへ動きます。構図は「視線の流れの設計図」であり、何を最初に見せ、どこに着地させるかを計算します。
なぜ現場で失敗するのか
- 無計画な撮影:「なんとなく撮る」ため視線が迷子になる
- 中央配置の単調さ:被写体が中央にあるだけで動きがない
- 背景のノイズ:背景の線や色が主題と競合し、視線がブレる
- 視線の出口不在:どこを見れば良いか分からず、離脱される
現場で再現できる解決策
基本構図の理解と使い分け
三分割構図:
- 画面を縦横3分割し、交点に主題を配置
- 最も安定感があり、視線が自然に誘導される
- 用途:メイン商品画像、静物、ポートレート
- 実装:カメラのグリッド表示をONにして撮影
対角線構図:
- 画面の対角線上に主題を配置
- 動きと奥行きが生まれ、ダイナミックになる
- 用途:使用シーン、ストーリー性のある画像
- 注意:対角線が複数あると視線が分散する
Z構図・N構図:
- 視線がZ字型(または逆N字型)に流れる配置
- 複数の要素を順番に見せる時に有効
- 用途:機能説明、ステップ表示、before/after
- 実装:要素を3つ配置(左上→右上→左下 or 右下)
中央集中構図:
- 主題を画面中央に大きく配置
- インパクト重視、一目で理解させる
- 用途:サムネイル、シンプルな商品、アイコン
- 注意:単調になりやすいため、背景で変化をつける
差し色(アクセントカラー)による視線誘導
- 主題の近くに高彩度の小物を配置
- 視線は「彩度が高い部分」に最初に向かう
- その後、主題に視線が移動する流れを作る
- 差し色のサイズ:主題の1/10以下
- 差し色の数:1点のみ(複数あると分散する)
例:
- グレーの商品 + 赤いリボン(差し色)
- 白い皿 + 緑のハーブ(差し色)
- 木製家具 + 黄色いクッション(差し色)
背景の線による視線誘導
- 背景に斜めの線(床の境界、壁の角など)を入れる
- 線が主題に向かうように配置
- 「リーディングライン」と呼ばれる技法
- 視線が自然に主題に誘導される
実装例:
- テーブルの角を斜めに配置し、商品に向かわせる
- 道や通路を使い、奥の商品に視線を誘導
- 手や指先を商品に向けて配置
明暗のコントラストによる誘導
- 主題を最も明るく、背景を暗めに
- 明度差は最低30%確保
- 視線は必ず明るい部分に向かう原理を利用
- Photoshopで部分的に明度を調整可能
実装チェックリスト □ 視線が最初にどこに向かうか確認したか □ 主題に視線が向かう「流れ」があるか □ 背景の線が主題を邪魔していないか □ 差し色が効果的に機能しているか □ 3秒以内に主題が認識できるか
⑫ 画像内の情報設計 —— 視覚的LPとしてのテキスト配置
解説
画像内テキストは「視覚的なランディングページ」。見せたい情報を瞬間理解させ、購買判断を加速します。ただし、過剰な情報は逆効果です。
なぜ現場で失敗するのか
- 情報過多:テキストを載せすぎて読む気が失せる
- 優先順位の不在:重要な情報が埋もれる
- フォントの不統一:バラバラのフォントで安っぽく見える
- 可読性の無視:背景と同化して読めない
現場で再現できる解決策
テキスト量の制限
- 1枚の画像内のテキストは最大3行
- 1行あたり最大15文字
- 合計45文字以内(これ以上は読まれない)
- 文字が多い場合は、複数枚に分ける
情報の優先順位設計
優先順位1:最大のベネフィット(最も大きく)
- 例:「防水」「軽量450g」「3年保証」
- フォントサイズ:画像高さの8-12%
- 配置:画像上部1/3
優先順位2:補足情報(中サイズ)
- 例:「雨の日も安心」「持ち運びラクラク」
- フォントサイズ:画像高さの4-6%
- 配置:画像中央または下部
優先順位3:その他情報(最も小さく)
- 例:「日本製」「送料無料」
- フォントサイズ:画像高さの2-3%
- 配置:画像下部または角
フォントの統一ルール
- 使用フォント:1種類(最大2種類)
- 避けるべき:明朝体(サムネイルで潰れる)、筆記体(読みにくい)、デザイン性の強いフォント
太さの使い分け:
- 最重要:Bold(太字)
- 通常情報:Regular(標準)
- 禁止:Light(細字)は小さいと読めない
背景にボックスを配置:
- テキストの背後に半透明の矩形を配置
- 色:黒(透明度60-70%)または白(透明度70-80%)
- テキストとボックスの余白:上下左右に10-15px
A/Bテストの実施
- テキストあり vs テキストなし
- 短文(1行) vs 詳細(3行)
- 配置位置(上 vs 下)
- CVRの高いパターンを採用
⑬ 背景処理 —— 白背景とシーン背景の戦略的使い分け
解説
白背景は信頼・清潔・普遍性、シーン背景は共感・生活感・物語性。どちらが正しいとかではなく、用途によって使い分ける。
なぜ現場で失敗するのか
- 白背景の黄ばみ:RGB値が220以下で「くすんだ白」になる
- シーン背景の主張過剰:背景が美しすぎて商品が負ける
- 使い分けの基準不在:「なんとなく」で背景を選んでいる
- 背景の不統一:商品ごとに背景が違い、ブランド感がない
現場で再現できる解決策
白背景の正しい作り方
RGB値の管理:
- 推奨値:RGB(245, 245, 245)〜RGB(250, 250, 250)
- 真っ白(255, 255, 255)は避ける ※真っ白が必須な場合もあるため注意
- RGB(240)以下は「灰色」に見える
撮影時の白背景:
- 専用の白背景紙(白色度95%以上)
- 照明を均一に当て、影を消す
- 露出補正を+0.3〜+0.7に設定
- ヒストグラムで白飛びしていないか確認
シーン背景の正しい作り方
背景の選定基準:
- ブランドの世界観と一致しているか
- 商品の用途が直感的に伝わるか
- 背景が主題より目立っていないか
- 色数は3色以内か
背景の彩度コントロール:
- 商品の彩度を100%とする
- 背景の彩度を70-80%に落とす
- Photoshopで背景レイヤーを選択し、色相・彩度で調整(彩度-20〜-30)
背景のぼかし技術:
- F値2.8-F4で撮影(被写界深度を浅く)
- または、Photoshopで背景を選択しガウスぼかし(半径3-8px)
- ぼかしすぎると不自然なので、適度に
背景の解像度管理:
- 商品:100%の解像度
- 背景:70-80%の解像度に落とす
- 視覚的に背景を「従属させる」効果
使い分けの明確な基準
白背景を使うべき場合:
- Amazon、楽天などのモール出品(規約で白背景必須の場合)
- 商品の形状・色を正確に伝えたい
- 複数商品を並べて比較させたい
- サムネイル用画像
- 新規顧客向け(信頼構築が最優先)
シーン背景を使うべき場合:
- Instagram、Pinterest(世界観重視)
- 使用イメージを伝えたい
- ライフスタイル提案型の商品
- リピーター向け(すでに信頼がある)
- ブランドストーリーを語る画像
両方を用意する戦略
- メイン画像(1枚目):白背景
- サブ画像(2枚目以降):シーン背景
- 用途に応じて使い分け
- チャネルごとに最適な画像を選択
背景のテンプレート化
- よく使う背景を3-5パターン用意
- Photoshopファイルとして保存
- 商品だけを入れ替えて使用
- トーン&マナーの統一が自動的に実現
⑭ 感情的訴求 —— 理性より感情で買わせる画像技術
解説
人は理性より感情で買います。食品なら「温度」、アパレルなら「質感」、雑貨なら「手触り感」。これらを視覚化する技術が売上を決めます。
なぜ現場で失敗するのか
- 「美味しそう」の非言語化:「美味しそう」を感覚で捉え、再現できない
- テカリのコントロール不全:食品写真で最重要な「艶」が出せない
- 温度感の不足:ホットなのに冷たく見える、クールなのに温かく見える
- 質感の平坦化:布なのか紙なのか、素材感が伝わらない
現場で再現できる解決策
食品の「美味しそう」を作る科学
艶(テカリ)のコントロール:
- 逆光で撮影(被写体の後ろから光を当てる)
- レフ板を手前に置き、適度に光を返す
- オイルスプレーで表面に薄く艶を出す(食品用オイル)
- ハイライトが入る角度を探す(角度を1度ずつ変えて確認)
湯気の演出(ホット食品):
- 撮影の3秒前に熱湯をかける
- ドライアイスを使う(冷たい料理の場合は不可)
- 霧吹きで湯気を演出(逆光で撮影すると見える)
- 連写モードで撮影(湯気は一瞬で消える)
シズル感(新鮮さ):
- 水滴を手動で配置(スポイトまたは霧吹き)
- 断面を撮影(果物、ケーキ、サンドイッチ)
- 撮影直前に切る(酸化する前に撮影)
- 照明で水分のキラキラを強調
色彩の調整:
- 彩度:-5〜+5(過度な彩度は不自然)
- 色温度:3500-4500K(温かみのあるオレンジ寄り)
- 明度:やや明るめ(+0.3〜+0.5EV)
- コントラスト:+10〜+15(立体感を出す)
アパレルの「質感」を伝える技術
生地の質感表現:
- マクロ撮影で織り目をクローズアップ
- サイドライトで陰影を出す(平面的にならない)
- シャープネスを適度に(やりすぎると硬く見える)
- 手で触れているカットを追加(触感の想像を促す)
光沢のコントロール:
- シルク、サテン:逆光で光沢を強調
- ウール、コットン:柔らかい光で温かみを出す
- レザー:硬い光でエッジを際立たせる
- 素材ごとに光の質を変える
着用イメージ:
- モデル着用は「質感」より「サイズ感」優先
- 平置きで「素材感」を伝える
- 両方を用意し、用途に応じて使い分け
雑貨の「手触り感」を伝える技術
触感の視覚化:
- 人の手で触れているカットを必ず入れる
- 手の表情(指の曲がり方)で柔らかさ・硬さを表現
- マクロで表面の凹凸を撮影
- 照明の角度で質感を強調(サイドライト推奨)
素材感の演出:
- 木:木目をクローズアップ、温かい色温度
- 金属:硬い光でエッジを強調、冷たい色温度
- ガラス:透明感を出す、逆光または半逆光
- 布:柔らかい光、手で触れているカット
カテゴリ別の感情訴求マトリクス
| カテゴリ | 訴求すべき感情 | 撮影法 | 色温度 |
|---|---|---|---|
| 食品 | 食欲、温かさ、新鮮さ | 逆光、湯気、水滴 | 3500-4500K |
| アパレル | 質感、着心地、高級感 | マクロ、サイドライト | 5000-5500K |
| 雑貨 | 手触り、所有欲、特別感 | 手のカット、マクロ | 4500-5500K |
| 家具 | 安心感、空間の温もり | 広角、生活シーン | 4000-5000K |
| 電子機器 | 先進性、信頼性、精密さ | シャープ、硬い光 | 5500-6500K |
⑮ 機能訴求 —— 言葉より伝わる画像の説明力
解説
組み立て方、開閉、サイズ可変などの機能は、文字より画像の方が3.2倍伝わります。
なぜ現場で失敗するのか
- 手順の不明瞭:写真だけでは伝わらず、結局文章が必要になる
- 重要部分の隠蔽:可動部や接合部が手や影で隠れる
- 説明画像のデザインの粗:矢印や番号が雑で信頼性を損なう
- 静止画の限界:動きが伝わらない
現場で再現できる解決策
機能説明の4ステップ撮影法
ステップ1:初期状態(使用前)
- 商品を開封直後の状態で撮影
- 全体が見える角度
- 照明は均一に
ステップ2:機能の発動(動作の途中)
- 折りたたむ途中、開く途中など
- 「どう動くか」が分かる瞬間を撮影
- 手は自然に、動作が分かりやすく
ステップ3:完了状態(使用後)
- 機能が完全に発動した状態
- ステップ1との違いが明確に
ステップ4:クローズアップ(重要部分の拡大)
- 可動部、ロック機構、接合部など
- マクロで詳細を撮影
- 「どこがどう動くか」を明示
手元の撮影技術
- 手は「説明役」として機能させる
- 指先で重要部分を指す
- 動作の方向を手で示す
- 硬い光で撮影し、影で「動き」を表現
- 影の方向=動きの方向
説明画像のデザイン原則
矢印の使い方:
- 色:赤または黄色(目立つ色)
- 太さ:3-5px(細すぎず太すぎず)
- 形:シンプルな矢印(装飾不要)
- 配置:動きの方向に沿って
番号の使い方:
- 丸で囲んだ数字(①②③)
- サイズ:画像高さの5-8%
- 色:白文字に赤背景(視認性最高)
- 配置:手順の順番に左上から
テキストの使い方:
- 1ステップにつき1文(10文字以内)
- 配置:画像の上部または下部
- フォント:太めのゴシック(Noto Sans JP Bold)
- 色:黒文字に白縁、または白文字に黒縁
GIF・動画との併用戦略
- 静止画4枚で手順を説明
- さらにGIFまたは短尺動画(5-10秒)で動きを見せる
- 静止画=詳細、動画=全体の流れ
- 両方を用意し、ユーザーが選択できるように
実装例:折りたたみ傘の機能訴求
- 全体像(開いた状態)
- ボタンを押す手元のクローズアップ
- 折りたたみ途中の状態(矢印で方向を示す)
- 折りたたみ完了(バッグに入るサイズ感を示す)
⑯ ファイル最適化 —— 離脱率を決める「重さ」の科学
解説
画像の「重さ」だけでページ離脱率が変わります。ページ読み込みが3秒以上かかると、離脱率は53%に達します。最適化は必須です。
なぜ現場で失敗するのか
- 画質劣化への恐怖:圧縮すると画質が落ちると思い込み、最適化しない
- フォーマットの無知:JPGしか使わず、WebPの存在を知らない
- 一律処理の誤解:全ての画像を同じサイズ・品質で書き出す
- 測定の不在:ファイルサイズを確認せず、アップロードする
現場で再現できる解決策
画像フォーマットの選択基準
WebP(最優先):
- JPGより25-35%軽い
- 透過にも対応(PNGの代替にもなる)
- 全ての主要ブラウザで対応済み
AVIF(次世代フォーマット):
- WebPよりさらに20-30%軽い
- ブラウザ対応が進行中(2025年時点で95%)
JPG:
- 古いブラウザ用のフォールバック
- 一般的なフォーマット
- 透明度が不要な写真に使用
PNG(透過が必要な場合):
- 透過が必要な場合のみ
- 図解、アイコン、ロゴなど
- 写真には使わない(ファイルサイズが大きい)
書き出し設定の最適化
Photoshopでの書き出し:
- ファイル → 書き出し → Web用に保存(従来)
- フォーマット:WebP
- 品質:85%
- 画像サイズ:横幅1500-2000px
- メタデータ:なし(ファイルサイズ削減)
- カラープロファイル:sRGB(Web標準)
測定と改善のサイクル
- Google PageSpeed Insightsで測定
- 画像の読み込み時間を確認
- 3秒以上かかる画像を特定
- ファイルサイズを50%削減
- 再測定して改善を確認
- 月次で全商品画像を見直し
⑰ アクセシビリティ —— SEOとUXを同時に改善する代替テキスト
解説
代替テキスト(alt属性)は、視覚障害者のための説明文でありながら、GoogleのSEO評価にも直結します。
なぜ現場で失敗するのか
- 商品名の羅列:「商品A」とだけ書き、内容が伝わらない
- キーワードの詰め込み:「防水 軽量 おしゃれ 人気 おすすめ」と意味のない羅列
- 統一性の欠如:担当者ごとにaltの書き方が違う
- 空白または無視:altを設定せず、SEO機会を損失
現場で再現できる解決策
代替テキストの正しい書き方
基本構造: 「[商品名] の [画像の内容] 、[重要な特徴]」
良い例:
- 「防水リュックサックの正面全体像、黒色で容量30L」
- 「木製ダイニングテーブルの天板クローズアップ、ウォールナット材の木目が鮮明」
- 「ワイヤレスイヤホンを女性が装着している使用シーン、ホワイトカラー」
悪い例:
- 「商品画像」(内容が不明)
- 「防水 軽量 おしゃれ 人気」(キーワードの羅列)
- 「IMG_1234.jpg」(ファイル名そのまま)
画像タイプ別のaltテンプレート
メイン画像(1枚目): 「[商品名]の正面全体像、[色]、[主要な特徴1つ]」 例:「折りたたみ傘の正面全体像、ネイビー、自動開閉機能付き」
ディテール画像: 「[商品名]の[部位]のクローズアップ、[素材や仕上げ]」 例:「レザーバッグの持ち手のクローズアップ、本革製で縫製が丁寧」
使用シーン画像: 「[商品名]を[誰が][どう使っている]シーン、[場所や状況]」 例:「折りたたみ傘を女性が持って歩いている雨の日の通勤シーン」
サイズ比較画像: 「[商品名]と[比較対象]のサイズ比較、[具体的な寸法]」 例:「スマートフォンスタンドとiPhoneのサイズ比較、高さ15cm」
機能説明画像: 「[商品名]の[機能]を示す画像、[手順または状態]」 例:「折りたたみ傘の自動開閉ボタンを押している手元、ワンタッチで開く様子」
文字数の目安
- 最小:15文字
- 推奨:30-50文字
- 最大:125文字(これ以上は読み上げソフトが途中で切る)
禁止事項
- 「画像」「写真」などの不要な言葉
- キーワードの不自然な繰り返し
- 装飾的な画像に詳細なalt(背景画像などは空白でOK)
- 商品と無関係な情報
ショップ全体での統一
altテンプレートの作成:
- 商品カテゴリごとにテンプレートを作成
- 記入例を5つ以上用意
- スタッフ全員に共有
- 新商品登録時の必須チェック項目に
CSVでの一括管理:
- 商品コード、画像URL、alt文を一覧化
- 定期的にレビューし、改善
- 空白のaltを検出し、修正
SEO効果の測定
- Google Search ConsoleでCTRを確認
- alt設定前後での検索順位の変化を追跡
- 画像検索からの流入数を測定
- 月次でレポート化し、改善を継続
⑱ A/Bテスト可能な撮影体制 —— データで勝つ画像戦略
解説
ECで勝つ事業者は写真を「感覚」で撮りません。変数を分離して撮影し、比較可能にすることで、データに基づいた改善を実現します。
なぜ現場で失敗するのか
- 撮影環境の非再現性:毎回光が違い、比較できない
- 複数変数の同時変更:構図も色も背景も変えて、何が効いたか分からない
- 記録の不在:設定値を記録せず、再現不可能
- 思いつき運用:「今回はこうしてみよう」という場当たり的な撮影
現場で再現できる解決策
ライティング環境の完全固定化
固定すべき要素(床にマーキング):
- 照明位置:±5cm以内
- 照明高さ:±5cm以内
- 照明角度:±5°以内
- カメラ位置:±3cm以内
- 背景位置:固定
測定と記録:
- 測光計で光量を測定し記録
- メイン光とフィル光の比率を記録(例:4:1)
- 色温度計で色温度を測定(例:5500K)
- カメラ設定を記録(ISO、F値、SS、WB)
再現性の確認:
- 1週間後に同じ設定で撮影
- 前回と今回の画像を重ねて比較
- 明度・色温度の差が±5%以内なら合格
- NGなら設定を見直し
テスト用の構図テンプレート3種
パターンA:中央配置、余白40%、白背景
- 最も安定、信頼性重視
- 比較基準として撮影
パターンB:三分割構図、余白30%、シーン背景
- デザイン性重視
- ライフスタイル訴求
パターンC:対角線構図、余白20%、カラー背景
- インパクト重視
- 差別化を狙う
1カット・1変数の原則
テスト設計の例:
- 基準画像:パターンA、彩度±0、コントラスト±0
- テスト1:パターンA、彩度+10、コントラスト±0(彩度のみ変更)
- テスト2:パターンA、彩度±0、コントラスト+15(コントラストのみ変更)
- テスト3:パターンB、彩度±0、コントラスト±0(構図のみ変更)
禁止事項:
- 複数の変数を同時に変える
- 例:「構図も変えて、色も変えて、背景も変える」→ 何が効いたか不明
A/Bテストの実施手順
ステップ1:仮説の設定
- 「彩度を+10すると、CTRが上がるのでは?」
- 「手のカットを追加すると、CVRが上がるのでは?」
ステップ2:テスト画像の作成
- 基準画像とテスト画像の2種類を用意
- 変数は1つのみ
ステップ3:期間の設定
- 1週間ずつ切り替え(最低7日間)
- 同じ曜日で比較(曜日効果を排除)
ステップ4:データの収集
- CTR(クリック率)
- CVR(購入率)
- 滞在時間
- 直帰率
ステップ5:分析と判断
- 統計的有意差があるか確認(最低でも100クリック以上)
- 有意差があれば、勝った方を採用
- 無ければ、次の仮説でテスト
記録管理の徹底
撮影記録シートの作成:
| 日付 | 商品名 | 照明位置 | 光量比 | 色温度 | カメラ設定 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2025/11/01 | 商品A | 45°左 | 4:1 | 5500K | ISO100, F8 | 基準撮影 |
テスト結果シートの作成:
| テスト名 | 変数 | 期間 | CTR | CVR | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 彩度+10 | 彩度 | 11/1-11/7 | 3.2% | 2.8% | 採用 |
| 彩度±0 | 基準 | 11/8-11/14 | 2.9% | 2.6% | – |
組織的な運用
- 月次レビュー会議の開催
- テスト結果の共有
- 次月のテスト計画の策定
- ノウハウのドキュメント化
⑲ 動画との連携 —— 静止画と動画の役割分担
解説
ECにおいて、動画を見たユーザーの購入率は見ていないユーザーの1.8倍。ただし、動画は静止画の完全な代替ではなく、使用目的によって使い分けることが重要です。
なぜ現場で失敗するのか
- 動画への過度な期待:動画だけで全てを伝えようとする
- 静止画の軽視:動画を作ったから静止画は適当でいい、という誤解
- 長尺すぎる動画:3分の動画は誰も最後まで見ない
- 目的の不明確:何を伝えるための動画か定義されていない
現場で再現できる解決策
静止画と動画の役割分担
静止画の役割:
- 商品の形状・色・サイズの正確な理解
- ディテールの確認
- 複数商品の比較
- サムネイルとしての訴求
- 瞬間的な判断材料
動画の役割:
- 動きの理解(開閉、折りたたみ、動作)
- 使用感の伝達
- 雰囲気・世界観の演出
- ストーリーテリング
- 感情的な訴求
EC用動画の3つの型
型1:機能説明動画(15-30秒)
- 目的:「どう使うか」を動きで見せる
- 構成:使用前 → 動作 → 使用後
- 撮影:固定カメラ、俯瞰または正面
- 音声:必ずしも必須ではない(無音でもOK)、またはシンプルなBGM
型2:使用シーン動画(30-60秒)
- 目的:「生活の中でどう使われるか」を見せる
- 構成:日常の一コマ → 商品の登場 → 解決
- 撮影:手持ちまたはジンバル、動きのあるカット
- 音声:環境音 + BGM
型3:ブランドストーリー動画(60-90秒)
- 目的:「なぜこの商品か」を語る
- 構成:課題 → 商品開発 → 特徴 → ベネフィット
- 撮影:複数カットの編集、インタビューも可
- 音声:ナレーション + BGM
動画の長さと視聴率を最適化
- 15秒:最後まで視聴率 85%
- 30秒:最後まで視聴率 65%
- 60秒:最後まで視聴率 35%
- 90秒:最後まで視聴率 15%
動画のサムネイル戦略
- 動画の中で最も魅力的な1フレームを選ぶ
- または、専用のサムネイル画像を作成
- テキストオーバーレイ:「30秒で分かる使い方」など
- 再生ボタンのアイコンを配置
⑳ クロスチャネル最適化 —— 媒体ごとに勝つ画像は違う
解説
Instagram、楽天、Amazon、自社EC…… 媒体ごとに「最適画像」はまったく違います。1枚の画像を全チャネルで使うのは、大きな機会損失です。
なぜ現場で失敗するのか
- 1枚使い回し:同じ画像を全媒体で使い、どこでも中途半端
- 縦横比の無理解:Instagramは正方形or縦長、なのに横長画像を使う
- 目的の混同:媒体ごとのユーザー行動を理解していない
- 工数への懸念:「媒体ごとに作るのは大変」という思い込み
現場で再現できる解決策
主要媒体の画像仕様とユーザー行動
Amazon:
- 推奨サイズ:2000×2000px以上(ズーム機能対応)
- アスペクト比:1:1(正方形)
- 背景:白背景必須(RGB 255,255,255)
- 目的:情報密度重視、比較検討
- ユーザー行動:複数商品を比較、ズームして確認
- 訴求:機能、スペック、信頼性
楽天:
- 推奨サイズ:1000×1000px
- アスペクト比:1:1(正方形)
- 背景:白背景推奨、シーンもOK
- 目的:情報とデザインのバランス
- ユーザー行動:レビューを重視、画像は補助的
- 訴求:コスパ、実用性、口コミとの一致
Instagram:
- 推奨サイズ:1080×1080px(正方形)、1080×1350px(縦長)
- アスペクト比:1:1 または 4:5
- 背景:シーン背景、世界観重視
- 目的:感情訴求、ブランディング
- ユーザー行動:スクロールで流し見、直感で判断
- 訴求:ライフスタイル、おしゃれさ、憧れ
自社EC:
- 推奨サイズ:1500×1500px(カスタマイズ可能)
- アスペクト比:1:1 または 3:4
- 背景:ブランド次第で自由
- 目的:ブランド体験の最大化
- ユーザー行動:じっくり見る、複数ページを回遊
- 訴求:ストーリー、こだわり、限定感
媒体別の画像制作マトリクス
| 要素 | Amazon | 楽天 | 自社EC | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 背景 | 白 | 白orシーン | シーン | 自由 | シーン |
| テキスト | 多め | 中程度 | 少なめ | 少なめ | なし |
| 彩度 | 標準 | やや高め | 高め | ブランド次第 | 高め |
| 構図 | 中央 | 中央 | 三分割 | 自由 | 対角線 |
| 情報密度 | 高 | 中 | 低 | 中 | 低 |
総括:売れる画像は「再現可能な仕組み」を持つ事業者が作る
EC画像制作の本質は、「センス」ではなく「仕組み」です。
仕組み化すべき5つの要素
1. ライティング環境の固定
- 照明位置を床にマーキング
- 光量比を測定し記録
- 色温度を固定(5500K推奨)
- 月1回のキャリブレーション
2. 編集基準の統一
- Lightroomプリセットの作成
- 彩度・コントラスト・明度の数値化
- モニターのキャリブレーション
- 編集ガイドラインの文書化
3. カット構成のテンプレート化
- 6枚構成の固定(メイン→機能→ディテール→サイズ→使用→信頼)
- 各カットの撮影角度・構図を定義
- チェックリストの運用
- 撮影前の絵コンテ作成
4. ブランド写真ガイドラインの運用
- スタイルガイドの作成(20ページ推奨)
- 撮影ルールの明文化
- 禁止事項の明確化
- 四半期ごとの見直し
5. A/Bテストの習慣化
- 月次でテスト計画を策定
- 1変数・1テストの原則
- 結果の記録と共有
- 勝ちパターンの横展開
これらを整えた事業者の未来
デザイナーが誰でも、カメラマンが誰でも、同じクオリティ・同じ世界観で安定して量産されるようになります。そしてその先に、「EC売上が画像で伸び続ける」状態が訪れます。しかし、中小企業や個人EC事業者だとなかなか手が回らないという方も多いのではないでしょうか?当社ではそんな方々のために、ブランドを深く理解し、専属フォトグラファーとしてお役に立てるパートナーとしてありたいと考えています。お困りごとがありましたらお気軽にご相談ください。

名古屋の飲食業界で商品開発や販促に15年携わる。現在はスイーツECを展開しつつ、飲食・EC向けに撮影を通じたビジュアルマーケティングを支援。
食と空間の魅力を引き出すためのブランディングや販促のヒントを発信中。
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