飲食店マーケティングの核心:本能に刺さる戦略とは【パート5】

飲食 ブランディング

人間心理を味方につける:脳科学マーケティングの実践

本記事は、USJを復活させた森岡毅氏のマーケティング理論をベースに、飲食店経営者向けに再構成したものです。森岡氏の著書「確率思考の戦略論」の考え方を飲食業界に応用しています。

本能に刺さるマーケティングの実践

これまでの4回の連載では、人間の脳における購買決定プロセスの3つの関門「重要性」「好意度」「納得性」と「本能を衝く戦略」について解説してきました。この最終回では、これまでの内容を総括し、飲食店経営者が明日から実践できる具体的なアプローチについてまとめます。

マーケティングは脳の攻略ゲーム

要するに『マーケティング・コンセプトづくりは、脳に対してどうやって「重要だ!」→「好きだ!」→「なるほど!」とその順番で認識させるのか?というゲーム』だということです。パッと見て、パッと聞いて、脳に直感的に重要情報だと認識させ、ほぼ同時に直感的にプレファレンスを獲得し、ちょっと遅れて最後に納得性も補強する……この3つの関門を突破するゲームだと認識することがとても大事です。

これを知っておくと、自分たちのマーケティング・コンセプトが十分な購入意向を獲得できないとき、いったいどの関門で引っかかっているのかを分析して改善しやすくなります。

実践的アプローチ:3つの関門突破法

1. 重要性の関門を突破する

問題点の診断:

  • お客様があなたのお店やメニューを一目見て「自分には関係ない」と判断していないか?
  • 広告やSNSの投稿が、ターゲット層の注目を集められていないのではないか?

解決策:

  • ターゲット層の切実なニーズや欲求に直接訴えかける言葉選び
  • 「この地域で唯一の〇〇」といった差別化ポイントを明確に
  • 視線を引く色使いやデザイン

実践例:

「疲れた夜、手間なく本格的な味を」というコンセプトを打ち出し、帰宅途中のビジネスパーソンの重要課題(時間がない、でも美味しいものが食べたい)に刺さるメッセージングをする

2. 好意度の関門を突破する

問題点の診断:

  • お客様がお店に「興味はある」が「好き」と思うまでには至っていないか?
  • 競合と比べて「特別感」「魅力」が弱いのではないか?

解決策:

  • 五感に訴える魅力の強化(視覚的な美しさ、香り、音など)
  • 期待を超える「驚き」の要素を取り入れる
  • 顧客の自己イメージを高めるような価値提案

実践例:

普通のラーメン店なら麺の種類が3種類程度なところ、あなたのお店では10種類の麺から選べるようにし、「自分好みにカスタマイズできる」という期待超えの体験を提供する

3. 納得性の関門を突破する

問題点の診断:

  • お客様が「良さそう」と思っても最終的な決断に至らないのはなぜか?
  • どんな疑問や不安が残っているのか?

解決策:

  • Reason To Believe(RTB)の強化:
    • 食材の産地や調理法の詳細な説明
    • シェフのストーリーや経歴
    • 他のお客様の口コミや評価
  • 価格の妥当性を示す工夫
  • 他店との明確な違いの提示

実践例:

メニューに「契約農家から直送の有機野菜使用」という説明を加え、写真や生産者情報を提示することで、高品質な食材を使用しているという主張の信頼性を高める

本能に刺さる仕掛けづくり

人間の本能は非常に強力です。食欲、性欲などの基本的な本能だけでなく、社会的動物としての本能も私たちの行動に大きな影響を与えています。

「井戸端会議効果」の活用法

SNSが爆発的に普及している理由の一つは、「他人がどうしているか」「他人に自分がどう見られているか」という社会性動物であるヒトが生き残るための本能に働きかけているからです。

飲食店での「井戸端会議効果」の活用法

  1. コミュニティ感覚の創出
    • 常連客同士が交流できる仕掛け
    • スタッフと顧客の関係構築
    • 地域に根ざしたイベントの開催
  2. 情報共有の促進
    • 顧客参加型のメニュー開発
    • SNSでの投稿特典の提供
    • 口コミを促進する仕組み

最後に:3つの関門を突破する統合アプローチ

成功するマーケティング・コンセプトを設計するための核心は、次の3つの質問に答えることです:

  1. この飲食体験は、顧客にとって本当に重要か?
  2. この飲食体験は、魅力的で好ましいものか?
  3. 提供する価値と価格のバランスは適切か?

これらの質問に明確に答え、顧客の本能に響くようなコンセプトを作り上げることができれば、競合激化の中でも持続可能な強いブランドを構築することができるでしょう。

人間の脳の仕組みを理解し、それに合わせたマーケティング戦略を展開することで、「なぜかまた行きたくなる」お店を作り上げてください。そして何より、お客様の「本能に刺さる」体験を提供することを忘れないでください。

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